9月28日(木)、映画『ブルーハーツが聴こえる』上映後に、「人にやさしく」を制作された下山天監督を招いて舞台挨拶を開催致しました。
ゲスト:下山 天 監督…劇中「人にやさしく」制作(下山)
進 行:和田 浩章…CINEMAChupkiTABATA支配人(-)
(場内拍手)
-わざわざお越し頂きましてありがとうございます。
下山:2本目の作品の下山です(笑)
-では、下山監督に、ブルーハーツの思い出をお伺いしたんですけど。
下山:僕は6人の監督の中で一番年上なんです。もう51歳になって…このブルーハーツの映画に取り組んだのが30周年で、今はちょうど32年でしょうか。私は本当に高校を出て「映画やりてぇ」って東京に出て来た時とちょうど同じ時間なんですよね。
-そうだったんですね。
下山:東京に出て来て、何とか撮影所に入ったんですよ。もう、今とは全然違う環境でした…日本映画は今ほど活況ではなく、本当に本数も予算も少なくて、もう本当に大変でしたね(笑)家賃払えなくて電気止められたりとか…
-そんなにすごい状況だったんですか?!
下山:「もうこの世界やめようかな」って思ったんですよ。仕事もそんなにないし、これからどうやって食っていこうかなと思って、この先々見ても、先輩たちがつっかえてて全然映画撮れない…で、鎌倉にその時僕が居た松竹の撮影所がありまして、なんとその撮影場にブルーハーツの皆さんが『青空』のPV撮影でいらしてですね。
-そんなことがあったんですね。
下山:僕がスタジオのアシスタント…まぁ雑用ですね(笑)扉開け閉めしたりとか、あれ持ってこいとか…でもその『青空』が僕にとってはじめての音楽の映像のお仕事だったんですよ!
-すごいですね!
下山:まだ当時、ミュージックビデオというものがまだ本当に始まったころで、ブルーハーツもデビューしてまだ1年とかで、注目されはじめた頃で『青空』っていう曲に携わって、ちょっと今までにない経験をしたんですね。ブルーハーツの皆さんって、すごくシンプルに映像に取り組むんです。セットを作ったり照明で一生懸命凝ったりってことじゃなくて、本当にだだっ広い松竹のボロいスタジオに、ほとんどライティングもせず、そのまま楽器だけでみたいな。演出も何もしないでもただ彼らの演奏を撮ってるだけなのに、スタジオの隅で聴いてて、ジーンと来ちゃって。そのあとに僕は「音楽映像をやりたい」って思ったんです。
-そうなんですか。
下山:『青空』に出会ったことで僕は映画を辞めて、映画辞めたことで映画をまた撮ることができて、それで29年経ってブルーハーツの映画のオファーをいただいたというのが、僕にとって『青空』と会って29年後なので、ちょっと想いが違いますね!もう、本当に感謝です!いろんな意味で。
-『人にやさしく』という選曲とその世界観についてお話いただいてもよろしいですか?
下山:そうですね、実はみんな各監督が好きに選んだんですよね。一曲もダブらなかったんです。僕はもう最初から『人にやさしく』と決めていたんです。
-その曲に思い入れがあるんでしょうか?
下山:まずブルーハーツの甲本ヒロトさんが「ロックとは何だ」って言ったときに、「初心に戻ること」と言いますか…「慣れないこと」ということをずっとおっしゃっていて、『人にやさしく』って曲はメジャーデビュー前の曲だったんです。僕はこういう原点の曲に取り組みたかった。『人にやさしく』というタイトルだけど一番人に優しくない映画っていう(笑)
-激しいですからね(笑)
下山:李監督もテーマを震災で取り組みましたけど、僕もこれ、3.11、震災に対してのメッセージがあって、僕なりのオマージュなんです。宇宙を題材としてはいるんですけど、いわゆるサバイバルといいますか、危機に立ち向かったときに…これが多分アメリカ映画だったら半分死んでるんですよ(笑)まぁ、殺し合う。今も、ね、ちょっと戦争…に向かいつつあるような世の中ですけど。
-本当ですよね。
下山:いざ震災のとき、日本人のいろんな自己犠牲があったり、いろんなしんどい部分をみんなで乗り切る!みたいなところは、世界の皆さんが、何かを感じてくれましたし、僕も当時すごく感じたものがあったんで、SF…宇宙ものの乗組員が日本人だったら、違うオチがあるんじゃないかなと思って。
-なるほど。
下山:もう、突拍子のないストーリーで、宇宙船だし『人にやさしく』で主演が人じゃないみたいな(笑)それでも僕は、今後の未来であり、ロボットを擬人化してるのは実は日本人だけだったんですよ。
-そういえばそうですね。はっとさせられました。
下山:そうなんです。手塚治虫先生も含めてなんですけど、これは通じる!今後の映画の使用に耐えうるなと思って。僕の中では、今一番人に優しいのって実は機械じゃないかと思ってます(笑)
ーそうかもしれませんね。
下山:意外とスマホが一番人に優しかったり。そういう風に思います(笑)
-映画の中では、どのように共存していくのか、または「許し」とか「祈り」とか、そういう日本人らしい部分がすごくあるんですけども、こういうSFの世界感をやりたかったんですね。
下山:はい。
下山:僕らの世界だとどうしても、子供の頃スターウォーズとかね。好きでしたから。
-この映画って、すごいは工夫がされている気がしたんですけれども、宇宙のシーンをどういうふうに撮影されたのかなと思いまして…。
下山:工夫というかですね、あれダンボールなんですよ!これ(両手で80cm位の大きさを表現する)くらいの大きさでした。
-(笑) CGは使わなかったんですか?
下山:後半の宇宙船を修理する場面はCG使ってますけど『ゼロ・グラヴィティ』という映画がありましたよね、宇宙をさまようやつ。「ちょっとあれを日本でやってやろう」って。市原隼人くん筋肉結構ムキムキだし、実際はワイヤーは1本だけなんです(笑)
-(笑)ワイヤーアクションなんですか?
下山:撮影の工夫も、もう観終わったあとなのでバラしますけど、最後の市原隼人くんが縦に回転するシーンなんかは、40時間かけて撮っていて…
-うわぁ、それはもう市原隼人さん大変な撮影でしたね。
下山:その後もスタッフがバッタバタ倒れていくんですけど(笑)元気なのは僕と市原くんだけっていう(笑)
(場内爆笑)
-監督は元気だったんですね(笑)
下山:そりゃあ、もう自主映画といいますか、映りたいからやるみたいな状態でしたから(笑)本当に楽しくやったし、アナログにこだわりましたね。
-何でアナログにこだわられたんですか?
下山:だって、1980年代って、殆どCGがなかったですからね。30年前のCGが出てくる前の映画って、例えば「2001年宇宙の旅」だったり「ブレードランナー」の初期とかもそうなんですけど、ミニチュアとかを駆使してみんなで手の込んだ作業をやっているほうがすごく心打つっていうか、最近はデジタルで何でもできちゃうけど、あの頃の作品を超えてるかっていうと、僕はちょっと疑問で…。
-分かります。
下山:実際にリアルに見えるんだけど、映画的にリアルじゃない気がしていて。
-昔の映画は匂いとか、記憶に鮮明に残るものがすごくあったんですけど、無機質になっていってるようなそういう感覚がありますよね。
下山:映画だけじゃないんですけどバーチャルはすごい映像でリアルなんですけど、なんか実感がない世界に入ってるかなと。だからクリストファー・ノーランなんか、もう本物か・ミニチェアかというところにこだわってますよね。だからちょっとそういう人が必ず出てくるかなと思って、多分、1億分の1の規模ですけど僕も(笑)ひとりクリストファー・ノーランを目指していました(笑)
-なるほど。でも時代は逆行しているというか、進化していけばやっぱり戻っていく動きもすごくあるなっていうふうに感じるんですけれども。キャストはどのように選ばれたんでしょうか?
下山:もう、やりたい人でまとめました。高橋メアリージュンさんとか西村雅彦さん、加藤雅也さん、あと浅利陽介くん。あ、市原隼人くん以外は全部僕、過去何度か一緒にやってて、結構仲良しなんですけど、今回僕は、最初から市原くんと早くやりたいって言って、もう直球でオファーしたら…。
-それはどんな理由があったんですか?
下山:彼は「Rookies(ルーキーズ)」とか熱血な青年役が多かったんですけど、僕の印象では岩井俊二監督の「リリイ・シュシュのすべて」とか、なんかひょろーっとした、無口で何を考えているのか分かんないみたいな。それがだんだんたくましくなって、表には出てないですけど、彼自身アクション映画も本当に趣味で作ったりして、そういうのと聞いてたんで、これば、自分と何か新しいキャラクターを作れるかなと思って、それでお誘いしたら「是非」って、そんなスターダストの俳優さんに出せるギャラはないですっていう(笑)
-でも、受けてくださったんですね。
下山:事務所もご本人も「これは仕事じゃなくて、下山さんの自主映画に出ます。」って(笑)
-音声ガイドを下山監督と作らせていただいたのですが、音声ガイドはいかがでしたか?
下山:難しいですけど楽しかったですね!僕も初めての経験だったんで、今日は僕、実は上映の途中から聴かせてもらっていて…。
-ナレーションをやったのが下山監督がミュージックビデオを撮られたLUNKHEADの小高芳太朗さんだったんですが…。
下山:えっ!?小高さんって、LUNHEADのボーカルの小高さんですか?(笑)そうなんですか!!?それで音声ガイドの最後に「LUNKHEAD」って(笑)
-そうなんですよ。そういうご縁があったりするんですけれども。
下山:(音声ガイドは)作品によるなぁと思いました。何かルールがないというか、演出的なただの状況説明でもだめですし、気持ちまで説明していいのかとか…僕は今日観てて、聴いて…あ、これはやっぱりある程度映像が走ったらそんなに説明要らないなって思いました。
-そうなんですよね。こう、聴いてみると(考え方等が)変わるんですよ。作っている時は熱中して色々要素を入れてしまうんですけど。
下山:状況音とかいろんな足音とか、台詞とか、頭でいい感じに色々想像している時に、説明が加わることで、想像していた世界が小さくなってしまったりしかねないというか…危険な気持ちになりますよね。あと今日僕シビれたのは、これも李監督の作品なんですけど「瑠璃色の空」っていう表現が「おおっ!?」って思いました(笑)そんなの台本に全然書いてないですし。あの空の色を「瑠璃色」と表現するって…!
-本当に嬉しいです。あの空の中で光が差し込み始めるって事に意味があると思ったので。
下山:そうなんです!「青空」ってだけじゃなくて青空の「青」にはすごく色んな青があったり、夕暮れや朝焼けとか含めて、英語でいうとゴールデンアンバーとか色んな組み合わせの黄色や赤や青の表現がある中で「瑠璃色の空」なんて「嗚呼!」って(笑)結構キましたね。今日は。
-ありがとうございます。良かったです。本当に嬉しいです。はい、ここでQ&Aの時間を取らせていただきたいのですが、下山監督へ何か聞いてみたい方いらっしゃいませんか?
お客様男性:歌を元に映画をつくるって、どういう風にやっていったんですか?
下山:各監督、みんな取り組み方が違うと思うんですけど、実は今回ブルーハーツさん側から、あるルールをいただきました。まず「劇中で歌ってはいけない」まぁ、1本歌っちゃってるんですけど(笑)まぁそれにはちゃんとエピソードがあって、その御触れが出る前にもう撮影が終わってしまっていた作品だったんですよ(笑)
(場内どよめき)
-えー!そうだったんですか(笑)
下山:飯塚監督(「ハンマー」)はもう「ええっ!?」みたいな感じでしたけど、これは特例でした。この映画はブルーハーツの曲でつくるんですけど「曲に頼らないでほしい」っていうのがありました。どういうことかと言いますと、撮った時の2014年の曲じゃないんです。だから2014年よりもその次の人たちに向けて何かメッセージを。当時我々が何十年も前に歌っていた当時の想いとは別に、今この時代で、この曲で、皆さんが映像とくっつけて今の人たちに新しいメッセージとして進化させてほしい。
-その要望を聞いたら納得ですよね。
下山:いわゆるミュージックビデオ的な世界に乗っかっちゃっていくのではなくて、違う化学反応を要求されました。だから各監督とも頭の中で違う掛け算で映像を作っていったんだと思います。
-もう、本当に6人の監督さんの頭の中をのぞいてみたくなりました(笑)
お客様男性:ありがとうございました。
下山:監督の皆さんは、ルールの中でもそれぞれストレートな思いで作っていったんだと思います。
-そして、ストレートな感覚で壊していった、ロックだなぁと思いました。
下山:井口昇監督の「ラブレター」も、井口監督自身の青春ですからね。まぁ、明日ここで舞台挨拶にいらっしゃるんですけど(笑)自分の(女の子に)振られた青春を、斎藤工さんを使ってやり直しているという(笑)
(場内爆笑)
下山:なので今作品は本当に各監督が素直にやりたいことをやっているんだなぁと思います。清水崇監督の「少年の詩」は、群馬の前橋の自分が通ってた小学校で撮ってますしね。
-本当に自由につくったものがうまく調和してひとつの作品になりました今作なんですけど、最後にお客様にメッセージをお願いします。
下山:今回、舞台挨拶だけじゃなくて、音声ガイドを作る機会を与えていただきまして、僕ら自身ずっと映画つくってきたんですけど、さっきの「瑠璃色」を含めて、監督の仕事って、そういう意味でもう一個増えたなって思います(笑)気づかされました。それを一緒につくっただけじゃなくて、自分がお客さんとして聴いた時に、この音声ガイドしかり字幕しかりまでいってはじめて自分の映画の世界が広がった気がして、この歳で色々気付かせていただきました。これからの映画作りに、何か気合が入ります!
-そうですか!嬉しいです!!この映画は本当に色々なことがあって、皆様に届けられたのがすごく色々な経緯があった映画です。今月は当館での上映は終わってしまうんですけれども、僕はまだまだこの作品を皆さんに届けたいと思っていますので、皆様がいろんなお友達とかお知り合いの方とかにも勧めていただけたら嬉しいと思っております。本日は下山天監督にお越し頂きました。どうもありがとうございました。
(場内拍手)
下山:ありがとうございました。
(写真:阪本安紗美)
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