9月23日(土・祝)、映画『ブルーハーツが聴こえる』上映後に、「ハンマー(48億のブルース)」を制作された飯塚健監督を招いて舞台挨拶を開催致しました。
ゲスト:飯塚 健 監督…劇中「ハンマー(48億のブルース)」制作(飯塚)
進 行:和田 浩章…CINEMAChupkiTABATA支配人(-)
-この『ブルーハーツが聴こえる』は、僕がどうしても上映したいということで、配給会社さん通していろんな方にご協力を得て上映させていただくことができました。その中で、視覚障碍者でも映画の場面状況が分かるように音声ガイドが入ったバリアフリー版というものを作らせていただく許可をいただいて、監督一人一人がわざわざ来ていただいて、音声ガイドの言葉とか、どのように表現した方がいいのかってことをことなど、事細かく丁寧にご指摘いただきました。もう、飯塚監督もそうなんですが、どの監督も素晴らしく、情熱を持って仕事をされていて、本当にありがたいことを経験させていただきました。では、準備が整いましたので、お呼びしたいと思います。皆さん盛大な拍手でお迎えください。飯塚健監督です。
(会場拍手)
-監督に色々お聞きしたいことがあるんですけども、作品の製作はどのように始まったのかをお伺いします。
飯塚:この作品は、ブルーハーツをテーマに自由に短編映画を撮らないか、というとてもいいお話をいただきまして(笑)「自由にやりませんか」なんて企画、そうそうないんです。
で、監督それぞれ、好きな曲を選んでくれという感じで。それも6人の監督、誰一人かぶることなく、それぞれ第一希望で撮れたんですよ。普通かぶりそうじゃないですか?「俺、TRAIN-TRAINがいいんだ!」みたいな(笑)
-3人くらい「TRAIN-TRAIN」だったりして(笑)そこで、監督がなぜ「ハンマー(48億のブルース)」を選ばれたのかを教えていただけますか?
飯塚:僕自身、中高ずっとブルーハーツを聴いてたんですけど、「はいすくーる落書」ってドラマ、ご存知の方もいらっしゃると思いますけど、「TRAIN-TRAIN」が主題歌だったんです。他にもブルーハーツの曲は色々なところで使われてるんですよね、CMとか。もちろんそういうみんな知ってる曲もいいんですけど、あまり知られてないけど良い曲というのが沢山あって、そういう曲を知って貰いたいなぁと思って、僕は「ハンマー」を選びました。だいぶん初期の曲で、副題が「48億のブルース」という通り、これはまだ地球に48億人しか人類がいなかった頃にできた曲で、だいぶ古いんですよね。
-でも、「ハンマー(48億のブルース)」から、あのような着想で、浮気をされてしまった女性を描いたというところが、元々自分も聴いてた曲だったので、すごく意外だったんですけど…。
飯塚:僕も意外でしたよ(笑)
(場内爆笑)
飯塚:「ハンマーが振り下ろされる♪」というフレーズがずっと繰り返されるので、ストレートにそういう描写を撮ろうと思いまして。とすると「一体何に、ハンマーを振り下ろすのか?」となり……やっぱり人って過去に囚われて生きていると思うんですが、たとえ捨てたくても、過去は足が速いですから、追いつかれるという。そういったものをこう、振り下ろす事で打破できないかと。それで主人公の設定を家具職人にした場合、自分がつくったモノを壊せるな、と思い、じゃあ何を作ったのか、それは恋人と二人で作ったモノなのか、だとしたら何かの記念なのか、などなど足していき、話を組んだ感じでしょうか。作った時点から、積み上げ積み上げ、現在に至るまでの「過去」をハンマーを振り下ろし、断ち切るという。
–他の作品は、世界観がすごいので、身近な作品で、順番も一番最初で、すっと胸を掴まれる感覚があるんですけど、この作品って、本当は2015年の…。
飯塚:公開は、2015年の8月10日って、確か聞いてたんですけどね(笑)
-えー!?どういう事だったんですか?
飯塚:悪い人たちが逃げたってだけです(笑)
最初はこの企画を統括していたプロダクションと、プロデューサーの方達がいなくなってですね…。
-そんな事あるんですか?
飯塚:本当にそうなんですよ。それで、僕含めて監督さんがみんな怒るじゃないですか、「ざけんな!」って話です。で、「つくったのにこれどうすんだ!」って話に当然なりますし、あれだけの方達が出演していますので、どうにかこうにかで上映まで進める事はできないか?という事で、各6作品の製作プロダクションのプロデューサーの方達が色々動いていただいて、クラウドファンディングという形でも力をお借りして、それであれこれあったんですけど、今年の4月の8日に公開できたんですね。
-すごいドラマがあったんですね。
飯塚:よくある話としては聞いてたんですけど、僕はそういう目にあった事なくて「あっ、これかこれか」って(笑)とはいえ、まぁこういう監督陣だし、キャストですし、「何とかなるんじゃないか」という楽観的な気持ちでいたら、そうでもなくてですね(笑)やっぱりこう、言葉を悪くいうと「手垢がつく」と言うんでしょうかね、いいプロジェクトだし、救ってあげたいけど、その元の人たちって「今どうなってるの?」みたいな。「ちゃんと整理ついてるの?」みたいな。こればっかりは僕らにもわからないんです。
-そうだったんですね。それがあって、公開に至ったわけなんですけど、製作秘話とか、何かありますか?元々つくっていたものをどんどん更新していったという顛末を、尾野真千子さんの記事を何かで見たんですけど、監督は、ああいった早口の流れを最初から決めていらしたんですか?
飯塚:僕は早口でって一言も言ってないんですよ。リハーサルの時とかも、何でしょうね、ああいう台詞なので、ダラダラ言ってると前の言葉の意味に引っかからなくなっちゃうんです。そういうのがすごく多いので、ああいう鋭い俳優さんたちが揃ってくれてると、勝手に察知してくれて、台詞を読んでくれるんです。何かギアのようなものが入ったんだと思います。だからそのぶん大変ですよ、本当に演じる方は大変ですし。家具職人の作業場のシーンなんかは、ずーっと尾野さんと角田さん、女子高生役の2人も喋りながら動いている。ああいう動きっていうのは、その場に入って決めるんで、芝居の動線を。事前にしているものの、芝居を始めてみて、「この台詞の時にヤスリをかけて、こう板に貼り付けて…」という具合に。台詞を言いながら、あれだけ動くとなると、僕は俳優的運動神経と呼んでるんですけど、そういうのがないとああいうシーンは成り立たないんですよね。
-では、キャスティングもかなり精査して、選ばれたということなんですか?
飯塚:やりたい人たちとやらせていただいたということですね。
-では、監督が注目していた方達を集められたという…。
飯塚:そうですね。女子高生の2人はその前に一緒に仕事をしてましたし、で、尾野真千子さんは前からご一緒したかったので。もちろん角田さんも。
-色々小ネタを入れてくるじゃないですか。「バンドやろうぜ」という雑誌が出てきたりとか。それは元々決めてあったんですか?
飯塚:もちろん決めてます。伝わっているかは、別問題ですけど(笑)
まあたとえほとんどの人が分からなくても、「はァ?」と思われても、(小ネタを入れるのは)やめちゃいけないと(笑)
(場内爆笑)
飯塚:今時「バンドやろうぜ」なんて、廃刊されてますから。じゃあどうやって手に入れるんだ!という話になるんですけど、みんながヤフオクとかで調べまくってくれてですね、「表紙がT-BOLANならありました!」とか(笑)
でも僕が、「表紙は黒夢じゃなきゃダメだ!」って(笑)
粘って粘って、やっと見つけたのを落札して貰いました。
-スタッフ一丸となってつくって行ってるんですね。で、「よっちゃんイカ」は何でよっちゃんイカなんですか?(笑)
飯塚:「よっちゃんイカ」って、何かあのパッケージ、昔からイラつくなぁと思ってて、何か自転車にでも轢かれねぇかなと(笑)
(場内爆笑)
飯塚:どうにか話に組み込めないかと(笑)
で、角田さんのポケットを「ドラえもんのポケットお菓子版」みたいにして。あと、実家の母ちゃんとの電話も、角田さんの役を一応佐世保出身いう思いで書いていて、海軍カレーとか。佐世保好きなんですよ(笑)坂の多い感じがとても。何か角田さんは「佐世保感」があるなと思って(笑)
-音声ガイドをお聞きになってないお客さんは気づかれなかったかも知れないんですけど、尾野真千子さんが、耳の後ろに七味唐辛子を入れていたりですとか、ああいういのも現場で思いついたりしたんですか?
飯塚:あれは、えっと、現場でしたかね(笑)七味は現場だったと思います(笑)
-ニット帽の中に潜ませてるんですよね。
飯塚:作業場で、職人がよく定規とか、鉛筆とかそういうものをいろんなところに付けていて、うちのスタッフと同じですよ。そうするとニット帽を被っていると、なんかこう、色々入れられるよね、と(笑)
(場内爆笑)
飯塚:で、何かポケットから出すっていうのが、時間的に空いてしまう、で何か怒っているシーンでは段取りくさくなる…どうせ段取りじゃないですか。どうせだったら「あ、そこね!」というところでいいかなと思って(笑)
-そうだったんですね(笑)撮影の時に苦労した事はありましたか?
飯塚:あそこ、実は結構雨降ってるんですけど、やっぱバレますよね?
-わからなかったです。
飯塚:あそこはああ、雨降ってきたから急いで撮って帰ろうって感じだったんですよ(笑)濡れる、濡れる!みたいな。本当に急いで撮らないと、シャツに雨だれが付いちゃうとそれを一回一回脱いで乾かしてどうのこうのみたいなことを繰り返していると、どんどん雨が激しくなるし、暗くなってくるからこれはとっとと撮って帰らないとやばいねみたいな感じになりました。
-そうでしたか、それで今回一緒に音声ガイドを製作させていただいたんですけど、監督どうでしたか?
飯塚:いや、本当にもう勉強することだらけというか、ああ、こういう作業があるということは、頭のどっかでは分かっていながら、どうつくっているのかは、(やってみるまで)わからなかったので。製作させていただいて、とても為になったし、何でしょうね、改めてものづくりの意味を考えましたね。
-いや、嬉しいです。それでは、音声ガイドを利用された視覚障碍の方の感想でも聞いてみましょう。では、前の女性の方どうぞ。
お客様A女性:宜しくお願いします。6作品観ていた中で、「ハンマー」がダントツ台詞が面白かったですね。(笑)
飯塚:ありがとうございます
お客様A女性:本当に、次から次へと結構笑わせていただきました。
-質問とかありますか?
お客様A女性:質問…キャスティングとかって、どうやって決められたんだろうっていうのがあって、何かというとNHK朝の連続ドラマ小説「ひよっこ」に出てる米屋の伊藤沙莉さんが出てたんで、「おお〜」と思って、声聞いて瞬間にわかって、びっくりしたんですけど、キャスティングを最後のエンドロールで聞く前に分かって、あの声素敵ですよね、で、どの時点で撮影していたのかがわからないんですけど、すごい先見の目のあるキャスティングだなぁと思ってました。そのあたりをお聞かせいただけたらと思います。
飯塚:もう、そこに関しては「でしょう?」としか言えないんですけど(笑)
(場内爆笑)
飯塚:彼女とは、2014年の時から仕事をして、そこからなので、で、はじめての次の仕事がこの作品だったと思います。
-もう佇まいがすごいですよね。オーラというか、持って行かれますよね。
飯塚:そうですね、あの世代で彼女しかできないことが間違いなくあるんで、すごいと思います。
-はい、他に誰か聞いてみたいことはございませんか?
お客様B女性:はじめまして。尾野真千子さんの役の方は、彼氏の映画を見てなんかすごく「ああ、こういうところに惚れたんだ」と思って、そういう思いを自分の中で、こう繰り返して咀嚼して、で、そのあとハンマーでぶっ叩いて最終的にはどういう道を選ぶんだろうというのが、それは、なんか観客一人一人が決めるってことなんでしょうか?
飯塚:まぁ、壊した後の表情をどう受け取るかってことなんですが、まぁ、本当に好きに受け取ってくださいと言いたいのですが、絶対に別れていると僕は受思っています(笑)
お客様B女性:あっ、そうなんですね。うーん。
飯塚:次のいい出会いに行ってね、という思いです。
お客様B女性:そん主人公の方も、成長を描いた話だと思うので、そういう意味ではやっぱり先に進むってことなんだろうなと思ったけど、でも、選択の余地はあるのかなと私は思ったりもしましたけど(笑)
-難しいところですね(笑)監督は、この作品を観ていただいてお客様にどういう気持ちになって貰いたいのでしょうか?
飯塚:難しいっすね(笑)六者六様なので、オムニバスってのは分かって受けているわけじゃないですか、仕事として。みんなテイストを被らないようにつくろうとは意識しないけど、被るんだろうなとか、別に被らないパターンもあるよねってところが、何となくそれぞれどこかに意識は絶対にしていたと思うんですよ。僕だって多少は意識したつもりで、ただ撮ったのが2014年って言いましたけれども、それまでの何かこう、何でしょうね、ラーメン屋でいう「全部のせ」みたいなのを作ろうと思ってたんですね。長回しもするし、ハイスピードもあるし、演奏シーンもあるよと。
-なるほど。どの監督さんも本当にこだわって自分のやりたいものをやっている!という感じをすごく受けとめられるんですけど。
飯塚:そこは、そうだと思いますね。一応頑張ったつもりです!(笑)この条件の中で。
-それを聞いて思ったのは、戦隊ものとかは、あれは何か意味があったりしたんですか?
飯塚:戦隊もの?ああ、あれは…意味…意味とか聞かないほうがよろしいんじゃないかと(笑)
(場内爆笑)
飯塚:後付けでいうと、「ノリ」と「ムダ」って結構大事だなと思ってるんです。僕は(笑)
-すごいんですよね。エッジ感というか。なるほどなるほど!
飯塚:いろんな方のいろんな説があると思うんですよ、映画評論家の人とか「このシーン要らないだろ?」とかあると思うんですよ。だけど、それはその人であって、僕らは要ると思っているからやってるっていうか、ちょっと話飛ばしていいですか?
-どうぞ。
飯塚:「順撮り」という言葉があるんですけど、シーンを1から撮っていきましょうという。時間の流れ、気持ちの流れがわかりやすい、だから昔からそれは美しいとされていて…まぁ今でもされてるのかもしれませんけど。でも今「順撮り」やれる文化なんてないっていうか、何ならラストシーンの手前からクランクインってことだって全然あるんですね。あるんですけども、でもそれが必ずしも悪いことだと思ってやってないんですよ、僕らは。それはそのために準備もするし、今までのシーンの流れを汲んでない分、必死で考えるわけですよ。想像するしかないから。そうやって撮るから、「これ、順撮り超えたんじゃない!?」っていうこともきっとあると思っていて。全部が全部一緒でなくて良い。
-いやぁ、面白いですね、映画を撮る、ここまで色々な経験というか、ブルーハーツはそれこそクラウドファンディングで・・・ようやく届いたって感じですけど。
飯塚:そうなんです。本当に長かったですね。
-結構映画って、撮ってから公開するまでに結構長かったりありますもんね。
飯塚:でも、これ長すぎですよ(笑)
(場内爆笑)
-それでは監督、最後にお客様にメッセージをいただいてもよろしいでしょうか。
飯塚:今日は観ていただきまして本当にありがとうございます。日本初のバリアフリー映画館ということで、僕もその定義っていうんですかね、ご一緒させてもらうまで分かってなかったんですけど、一緒に作業をさせていただいたりとかして、実際に映像が視えてないからこそ、伝わっているものってこんなにあるんだなってことを教わりましたし、「台詞が面白かった」と言っていただいたり、あれはそんなに早口だとは感じられてないですよね?きっと。そんなこともないですか?
お客様A女性:テンポ感がすごくいいなって感じでした。と捉えています。はい。
飯塚:何か、本当に捉え方っていっぱいあってしかるべきだなと余計思いましたし、だから多少のことをちょっと言われても、僕らスタッフは曲げない部分って言うんですかね、そういった部分がないとダメだなぁって余計思ったといいますか、昨今こう「わかりやすさ」というのを、すごく勘違いしてものを作らざるを得ない環境がすごく増えていると思うんですよ。「これ、わかるかねぇ」みたいな。「視聴者わかるかねぇ」みたいな。いや、視聴者に分かってもらうのはいいんですよ。色々な想像して観てくれてるし、まぁそう思ってやっていってるんですけど、だから多少要らないと思っても付き合って欲しいなぁって思います(笑)
(会場爆笑)
飯塚:それも分かった上でこれからもやっていきたいです。
お客様A女性:戦隊ものは楽しかったです!(笑)
飯塚:そう言ってもらえると嬉しいですけどね。今日は勇気を貰いました!
-いやー、よかったです。今日は飯塚健監督にお越しいただきました。本当にありがとうございました。
(会場拍手)
(写真:阪本安紗美)
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