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9/3(日)『光』小市慢太郎さん、田中正子さん舞台挨拶

9月3日(日)、映画『光』上映後に、出演された小市慢太郎さんと、田中正子さんを招いて舞台挨拶を開催致しました。

『光』トークライブ

ゲスト:小市慢太郎さん…智子の夫 明俊役(小市)
    田中正子さん…正子役(正子)
進 行:平塚千穂子…CINEMAChupkiTABATA代表(-)

-皆さん到着されたようですので拍手でお迎えください。本作の出演者、小市慢太郎さんと、田中正子さんです。どうぞ!

(会場拍手)

-映画の中ではね、盲導犬が全然映ってなかったんで正子さんは盲導犬ユーザーだということをはじめて知った方もいらっしゃると思います。それではよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

-お二人は映画『光』モニター役で…正子さんはリアルで視覚障碍者で、小市慢太郎さんは今回視覚障碍者のモニター役で出られましたけど、視覚障碍者を演じられたのは今回はじめてでしたか?

小市:僕はね、2回目です。1回目は崔洋一監督の映画『クイール』で視覚障碍者の役を一度やらせていただいたことがありました。

『光』トークライブ

-そうなんですね、実は小市さんが視覚障碍者の役を演じるということで、撮影に入る前に※シティ・ライツの視覚障碍者の人たちを取材させてほしいという話がありまして、チュプキの2階に講習会とか行うスペースがあるんですけど、そこでカラーコンタクトレンズを着けられたりされていたのを覚えてるんですけど。

※シティ・ライツ:シネマ・チュプキの運営母体で、2001年から視覚障碍者のための映画鑑賞にあたり、音声ガイドをつくってきた団体

小市:そうですね。最初に監督とお会いして、今回視覚障碍者役のことを演じるにあたり色々相談しまして、永瀬正敏さんが演じる雅哉という役と対比を含めて、自分がもしやるなら、パッと見ただけで視覚障碍者であるというふうに、ビジュアルで見えたほうがいいのではないかということを監督に提案しまして、それで色々考えましてカラーコンタクトを目の中に入れるということをやりました。ちょうど1年前くらいのことですね。

-そうですね、去年の10月位から撮影に入りましたね。どうでしたか?いろんな視覚障碍者の方5、6組とお話されていたと思うんですけど、その時の印象とか…

小市:やはり先天性の方と後天性の盲人の方では少し違って。我々が全然想像がつかないんですけど、生まれた時から目が見えない方と、普通に見えてた方が、視力がどんどんなくなっていのとは明らかに違うんだろうなとは思っていました。実際の方にお伺いにしたら割と先天性の方は結構明るいんですよ!意外や意外なくらい突き抜けて明るくて、なんか『光』というタイトルの通り、その方自体が光っている。本当にイメージと違いまして、すごく勉強になりまして、役を演じる上で大きな支えになりました。僕は先天的の役だったので、このような方々に見えるように、またはこのような方がもつエネルギーが出せるよう意識しました。

-撮影中も常にニコニコされており、現場を癒しておりましたよね。気付いた方いらっしゃいましたか?ホワイトライトという会社の智子さん(神野三鈴さんの役名)の旦那さんという設定になっていまして…

小市:そうなんですよ。お分かりになった方いらっしゃいました?わかんないですよね(笑)色々撮りましたが結構キュートな役柄でした。なかなか難しかったですよね(笑)でも関係性としては夫婦という設定だったんです。

一応河瀬監督にこの作品を作られる時に、私も電話でお話したんですけど、智子さんのモデル、一応私らしいんです(笑)で、私の主人も目が見えなくて、その話も随分聞いて頂いてて。で、小市さんの隣にいらっしゃるのが視覚障碍者役の田中正子さんです。正子さんの台詞が印象に残ったお客様も多いかと思います。その正子さんに、この映画に出演されたいきさつをお話しいただいてもいいですか?

『光』トークライブ

正子:はい、正子です。緊張して若干マイクを持つ手が震えています(笑)去年の9月5日だったと思うんですけど、音声ガイドの※※ディスクライバーさんをヒロインに映画を作りたいという様なお話で、実際にモニター検討会ってどんな雰囲気なのかを見せてくださいということで、ここチュプキの2階で実際私たちが普段やっている音声ガイドのモニター検討会を、短い時間でしたが、模擬でやったのがきっかけです。実際ロケは関西でやるので、ということだったので、雰囲気が伝えればいいのかなと思っていました。摸擬の検討会が終わった後で、「では出来上がりを楽しみにしています」というお話をして監督と別れしました。

※※ディスクライバー:音声ガイドの原稿を書きあげるライターのこと。

-摸擬モニター会の美佐子さん(水崎綾女さんの役名)が『あん』の音声ガイドの冒頭の台本を書くということをはじめて、オーディションを受けた5日後とかに書かれてた台本だったらしいんですけど、それをモニターチェックされてて、で、その時正子さんはまさにこの劇中で言っていたような「私たちの世界を壊さないでください。もっと私たちは広い世界を見ています」っていうのと一緒だったんですよ。で、そこで…

正子:はい。美佐子さんの顔色を気にせず(笑)ちょっと美佐子さんがぽろぽろと涙を流されて、とても悔しい、うまく伝わらないというもどかしさを噛み締めていらっしゃって、なぜかカメラマンさんと監督は嬉しそうな顔をしておりました(笑)

ーカメラマンさんと監督はね、「よしこれで良い画が撮れるぞ」という感じでしたね(笑)でもその時に、本当美しい涙を見せてくださってね、私たちもちょっと普通にモニターチェックをしていたら泣かれてしまったので、困って、正子さん以外にもあと2人のモニターが「あ、上手く書けてるんだよ、書けてるんだけどもっと高い要求をするとね…」って色々フォローしたら、「慰められると余計涙が…」って言って泣かれてましたけどね。そのあとに監督を通じて、出演者の方に対して、関西での撮影になるので、大変ですが正子さんに是非来ていただきたいというお話がありまして、で、私ものこのこ付いて行くという事になって(笑)お陰様で永瀬正敏さんと交流させていただきましたけど(笑)正子さんの初めてああいう現場に立たれて、なぜか正子さんのところだけ台本がないということでしたね。

正子:まったく用意された台詞がなかったので、一か所ここはやって欲しいかな?というチェックはあったんですけど、もう正子の言葉で・・・?という感じで書かれていたらしくって、台詞はないけれどもモニターとして呼ばれているということは、普段通り、好きにやってくださいっていう事なのかな?って思ってその場に臨みました。

-モニター会だけのシーンなんですけど、朝7時くらいから夜8時くらいまで撮ってましたよね。

田中:はい。小市さんが隣に座られて、私が発言をすると「うーんなるほど」とか「そっかー」とか小声で相づちを入れてくださってて、周りの方はあまり気づかないと思うんですけど隣の私は「あっ、小市さん頷いてる」っていうのがとてもリラックスできる空気を出してくれました。

『光』トークライブ

小市:なんかね、本当におっしゃることが、まぁ、当然台詞がないというかたちで映画が目の前で流されてて、それに対して本当に思うことをおっしゃるのでこっちも何か、自然にね「ああ」とか「うーん」とかいろんな声が出ちゃったんですけど。それをまた監督自体が「今の良かったからもう一回やってくれ」というリクエストが結構あるんですよ。で、我々俳優というのは基本的にそういうことを同じ鮮度を保った状態で、まるで初めて起こったかのように再生するっていう訓練を日頃してますけど、正子さんはそう言う意味では全く初めてだっていうことで、でもそれを本当に的確になさるのでそれに対してもまた「うんうん」みたいな二重三重の驚きがあって、すごく新鮮でした。こちらもすごく刺激的だったです。はい。

正子:でも2回目のモニター検討会では、私がアドリブで皆さんにも「どうですか?」みたいに色々聞くんですけど、小市さんも本当合わせてくださって、アドリブを返してくださるシーンがとてもあって助かりました。

小市:いえいえいえ(笑)なんか必死についていった感じですよ。

-ちょっと変えたんですよね、最初のモニター会のシーンと、2回目のモニター会のシーン2日間撮影があって、ちょっと間が空いたんですけど1回目のモニター会のシーンで、ちょっとやっぱりはじめての他の皆さんは台本があって、土台の台詞を入れて来てて、正子さんだけがアドリブで、もう何が飛び出すかわからない状態の撮影を行なって、モニター会としての熱というか、ちょっとギクシャクした感じに見えて、正子さんとすごく悩んでね、それをもっと普段の音声ガイドを作っている人間がっていうのは、もっとこう色々意見が飛び交って、作ることがとにかく楽しいっていうか、そういう現場になっていかないとということで、2回目のモニター会の撮影に入る前に、勇気を振り絞ってね、ちょっと河瀬監督に思っていることを正子さんに伝えて、でそれでこうあのー、他の役者の皆さんにもアドリブで質問がされて、アドリブで答えるっていう流れになったんけどね。

田中:はい。映画でも美佐子さんに「この作品のどのような感覚を受け取ってガイドを書いてますか?」って言ったのはアドリブで、それに対する美佐子さんの言葉もアドリブです。

-美佐子さんは、とにかくずっと撮影中音声ガイドを書くことに対して苦しみ抜いて、悩み抜いて、っていう感じでした。休憩時間にも随分その悩みを聞きましたよね…もう1年前ですけど…はい。では、せっかくですのでこういったこじんまりとした空間とトークショーですので、お客様からも是非ご質問があれば…ご遠慮なく、聞きたいことのある方、聞いてください。

お客様A男性:僕は何度か視覚障碍者の方と美術館に行ったりしたことがあるんですけど、その時に感じたことは、我々普通に目が見えたり、耳が聞こえたりして、なんと言うかこう余計な情報が非常に多く入って来てるように、逆にすっごく研ぎ澄まされてるんっかなぁということは感じます。で、またこの映画を鑑賞して、非常にそれを強く確認というか、感じることができて、ちょっと質問になっていないんですけど、非常に良かったです。

-ありがとうございます。

お客様B女性:質問です。ちょっと抽象的かもしれないですけど、この映画で、大事にしたものって何ですか?

小市:どう言おうかな(笑)一番大事にしようと思ったのは、今回私自身は、さっきもお伝えしたように目が見えないようにコンタクトレンズを使ったりして実際に目を見えなくするんです。それは、自分にとって役者として役をつくるというよりも「体験」に近かったんです。「ああ、見えないってこういう世界なんだ」って。介助してもらわないとその現場にも行けないし、普段カメラがどこに構えているか分かるんですけど、いつ回っているのかも、見えないから全く分かりません。そういう意味であらゆることが長く役者やってますけど、今回の役に関しては、すごく初めての体験が多くて、だから何かを大切にしているという意味においては、そういう体験を「させてもらってる」っていう。それを感じたままそこに居るってことが凄く貴重な経験で、そういう機会を大切にしたっていう感じですね。

正子:私はとにかく普段モニターをさせていただいているのは、自分が楽しいからです。映画では、ディスクライバーさんがガイドを書いてくださるんですけど、それを何人もの検討仲間でモニターを何人かの目で、または何人かの耳で、映画を一緒に落とし込んで行こう、はまってみる世界というのが本当に楽しくてモニターを続けているような感じです。で、そのモニター検討会の深さというか、奥深さというか「こんなに素敵な世界がありますよ」ということを伝えることが少しでもできたらいいなぁと。私はいつもシティ・ライツに加わらせていただいて、シティ・ライツからそういう映画という媒体を通してですけれど、複数の人の感性がぶつかり合う。で、その中で良いものを目指して良いものをつくろうとする場所がすごく素敵っていう。そういう感覚をシティ・ライツからもらっているので、少しでもそれが出たらいいなと思って撮影に臨みました。

-はい。ほかにありますか?

お客様C男性:映画を拝見して「他者理解」について考えさせられました。先ほどおっしゃっていましたけども、先天性の視覚障碍の方と後天性のそれとは違うという話で、小市さんは先天性の方の役を演じられたとのことでしたが、ご自身とは異なる役柄を理解するという事はどういう事だったのかなと。正子さんに関しては、障碍をお持ちの方が、障碍をお持ちの方を演じられたという事で、その場合、どういうふうなかたちにすれば違う人(他者)を理解して演じてこられたのかなと思いまして、お答えいただければと思いました。

『光』トークライブ

小市:とっても難しい質問ですね。理解をするという部分。これは本当に極論で言えばわからない。それはもう決して理解できないというものだと思います。で、やはり、「生まれた時から目が見えてる」と「生まれた時から目が見えない」っていうことも表裏一体で、どちら側も理解をするというのはとても難しい事だと思います。だからそういう意味では私自身それを理解するというよりも、少しでもそれを体感する。本当に短い期間ですけどそれを体感した時に自分がどう感じるのか、あるいはどういう世界なのかを知りたい。というのがすごくまっすぐな答えです。実際にやってみて、あるいはやらせてもらってまず一番感じたのは、自分が目の見えている時は、自意識が結構高い状態です。これが目が見えないのならば、自意識というのは途端になくなっていくというか「自分」という概念がすごく曖昧になっていく。これは本当にそう思います。やっぱり見て分類できる状態と、まったく見えない状態では分類できない。これはやってみてすごく感じました。介助してもらう、あるいは触れられるということ、その状態で人と対峙するとなると、その状態に慣れるまで結構時間がかかるじゃないですか。でも、初めから目が見えない状態だと、割と人とすぐに触れ合えるというか。例えば人の肘を触れさせてもらったりするわけですよ。で、我々たとえば本当に目の見えない状態の人間同士だと簡単に腕が組めるわけです。見えてる人はそこにいくまでステップがすごくあるじゃないですか。でも見えないからそれがすっとできたりする。で、その掴んだ腕とか、やりとりで、すごくいろんなことが本当に伝わって来るんです。道を案内してもらえるという安心感、そういう微細なことが伝わって来る。それは本当に驚きと感動で、どこまで自分が開眼できて、共感できたかということなんですけど、「ああ、こういう世界に住んでらっしゃるんだなぁ」って、それが今の自分にもそういう力になりたいって思いますね。そういう感じでした。

田中:私は何を聞かれたんでしたっけ?という感じなんですけど(笑)私は私という感じで、障碍を見えないにしても、正子じゃない人は正子じゃないし、みんな違う立場で何かを介してもらうのは、やはり私は正直に居ようと思っています。なので、モニターもストレートに正直に自分で行きました。

-河瀬監督もね、「もう正子さんはそのままで居てください」っておっしゃっていましたよね。あの、河瀬監督と正子さんが合流された時のメールのやりとりのお話もぜひお聞かせいただけたら…

正子:はい、私は撮影、そのモニター会に2回と、『その砂の行方』の試写会シーンで1回なので、多分監督とは3日間だけご一緒したと思うんです。で、最後のクランクアップの日に私は、皆様お疲れ様でしたという時間までは残れずに、まだみなさんが撮影中に帰ったんですけれど、そういうバタバタとした中で監督に「帰ります」と、ちょっとだけご挨拶して帰ろうって行きましたら、監督がもう両手を握られてて(笑)「私の映画に命を吹き込んでくれてありがとう正子」って言ってくださいました。私はその言葉にすごく感動しました。そのあとも音声ガイドが付いた試写会を観たり、あと劇場で実際に行ってiPhoneに入れたUDキャストというアプリを使って実際に映画を観て参ったという報告も監督にしました。で「カンヌに一緒に行きたかったねえ」って言葉をいただいたり、『光』の今後どんな感想を持たれましたか?っていうようなやり取りをされて本当にとても短いやりとりなんですけど、とても言葉が深くて、頭に残っています。で、映画『光』は、1人で観て昇華するものではなくて、みんなでいろんなことを分かち合いたいね、という監督からのメールをいただきました。

-ありがとうございました。まだまだお話聞きたいんですけど、お時間が来てしまいましたので、最後にお二人に映画『光』をこれからご覧になるお客様へ何か一言づつ頂戴したいと思います。

『光』トークライブ

小市:私にとっては自分の人生の中で貴重な体験、素晴らしい体験をさせていただいた作品となりました。映画をご覧になった方、色々感じたことがあると思います。その感じたことを色々な方とシェアできたらいいなと感じます。ありがとうございます。

-ありがとうございます。

正子:この映画『光』というタイトル。そこが私はすごく大好きです。音声ガイドの深さというか、映画の大きさみたいなものも、普段私たちとモニター検討会をしたり、台本制作講座を受けていただいたり、色々なことをして関わってくださる人のことは伝えたつもりですので、もっと色々広げて、皆さんの中に少しでも光が届けば嬉しいです。

-ありがとうございます。

『光』トークライブ

(写真:阪本安紗美)

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