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9/30(土)『光』永瀬正敏さん舞台挨拶

9月30日(土)、映画『光』上映後に、主演の永瀬正敏さんを招いて舞台挨拶を開催致しました。

9/30(土)『光』永瀬正敏さん舞台挨拶

ゲスト:永瀬正敏さん…中森雅哉役(永瀬)
    田中正子さん…正子役(正子)
進 行:平塚千穂子…CINEMAChupkiTABATA代表(-)

-それでは、いらしているようですので、お入りくださいませ。

(会場拍手)

-すごい、本物です(笑)。近いので、こんなに近くで永瀬さんと出会えるなんて‥

永瀬:近いですね(笑)

-なので、こういうこじんまりとした空間ですし、今日は極力、お客様と永瀬さんの交流の時間を取りたいと思っておりまして、今日は私も緊張して真っ白な状態です(笑)まず、永瀬さんの方から『光』をご覧の皆様に一言頂いてもいいですか?

永瀬:はい。本日はありがとうございます。お越し頂き、見て頂いてありがとうございます。映画はやっぱり観て頂かないと完成しないので、とても嬉しいです。どうも、雅哉です(笑)

(会場拍手)

-もうね、撮影の時には雅哉に入り込んでいるというか、もう雅哉さんそのものでしたよね。

永瀬:実は、現場にいらっしゃった、カメラマンのアシスタントの方も「マサヤさん」だったんですよ。

-お名前が?

永瀬:はい(笑)だから監督が「マサヤ!」と言うたびに二人とも振り向いてしまって。それからマサヤA・マサヤBっていう呼び方になって。「Bの方、Bの方!」って(笑)監督の撮影方法はすごく特殊なので、撮影をしている時にも、アイディアがドンドン溢れ出てくるんです。「雅哉、もう少し美佐子のことを何か話してみて」と急に提案されるのを、一回心の中で噛み砕いて、そこからもう一回話はじめる・・ということが、『あん』の時も同様でしたし、河瀨組はそういうことが結構多いのです。だから「マサヤ」って言われると、つい反応してしまうんですよね。そしたらカメラの方を呼んでいたり(笑)最初のうちはそういうことが、ありましたね。

-私もモニター会のシーンだけでしたが立ち会わせて頂いて、本当に劇映画の中でドキュメンタリーを撮っているような、そんな現場でしたね。

9/30(土)『光』永瀬正敏さん舞台挨拶

永瀬:モニター会の途中で僕が入って行くシーンがありましたが、その時期は雅哉の部屋にずっと住んでいました。朝起きたら、雅哉の服に着替えて、大体の時間に外出するんです。その時はもう雅哉として生きているので、本当に目が不自由になったかのように歩いて向かいました。現場に着き、小声でスタッフさんが「雅哉さんどうぞ」って言うのを聞いて、そのまま(モニター会の撮影場所に)入って行くという。入る前から雅哉にならなきゃダメなんですよね。その過程でいろいろ気づくことが沢山ありました。例えば急に自転車が近づいてくると本当に怖い!ということや、スマホを見ながら信号待ちしている人やバス停にいる人は気付いてくれないので。その一方で、少し離れた所で、両サイドに分かれて僕が通り過ぎるのを待ってくれている今どきの若者もいましたね。かっこいい恰好して、髪の毛も茶色っぽいかわいい女性がいて…かわいい女性だと思うんです、ほとんど見えていないのですが(笑)僕が通り過ぎるまでずっと待っていてくれる人がいる、そういう人たちもいるという温かさを感じながら撮影に入っていくのは、他の現場で演技を始める事とは違うんですよ。他の映画での、朝入ってメイクをして頂いて、衣装に着替えて、監督に説明して頂いて、リハーサルをやって、じゃぁ本番行きます・・という流れと、河瀨さんの現場は違うんですよね。

-ちょうど去年の10月ぐらいから撮影に入られたと思うんですけど、永瀬さんと水崎さんは奈良に住まわれていたんですよね?雅哉として生活をしているという感じだったんでしょうか?

永瀬:そうですね。監督が少し早めに入ってそこで生活しながら雅哉を積んでいく時間を与えてくださったので、雅哉として生活していましたね。

-生活の中でもいろいろ気づかれたこととかあると思うんですけど、なんかおもしろいですよね。「雅哉たる自分」とそれを客観的に見ている自分がいたりするっていうのは。

永瀬:準備段階はそうですね。客観的に見ている自分もいました。

-入り込んじゃうと素の自分すらいなくなるんですね?

永瀬:うまく説明できないのですが、客観視している自分がいると監督に勘付かれてしまい、「今雅哉っぽくやったでしょ?」と言われてしまうので、四六時中雅哉として生きようと思いましたね。

9/30(土)『光』永瀬正敏さん舞台挨拶

-それはすごい。今日ですね、実はもう一方映画の中に出演されていた正子さんもいらっしゃるんですけど。
まさこさ~ん?

(会場拍手)

-正子さんからも一言頂いてもいいですか?

正子:今日は本当にたくさんの皆さんと一緒に、一観客として『光』を観られて、なんかまだ現実に戻
れないのです(笑)。戻りきれていないんですが、ひとつお詫びです。試写会のシーンで、私の相棒の盲導犬が寝言を申しました(笑)何だろうと思った方すみませんでした。一番いいところでお邪魔致しました。

(会場笑)

永瀬:かわいかったですね。

正子:皆さんの息遣いがすごく聞こえて、感無量です。ありがとうございます。

-ありがとうございます。私がもう進行のプレッシャーに耐えられないので(笑)、早速皆さんにマイクを振りたいと思います。質問や感想を伝えたいという方は挙手をお願いします。

お客様A女性:ありがとうございました。私は去年から福祉の大学に通っているんですけれども、学生に視覚障害の方が何人かいて、仲良くしているんですけど、話したら泣いちゃいそうなので‥視力がだんだん‥(言葉が詰まり涙ぐみ、マイクを置く)

永瀬:なんか・・・伝わりました・・・。

-響いたんですね。

お客様A女性:友人に多いというか、周りにそういう方がいて‥

永瀬:大丈夫、ゆっくり・・・。今日はこれから3時間くらい話しましょう(笑)

お客様A女性:視覚障害の子が周りにいるので、視力を失っていっちゃう子もいるので、こういったかたちで、映画で多くの人に関心を持ってもうこととか、そういう人たちがいるということを、その人たちにもその人の人生があるということを、まとまらなくなっちゃったんですけど‥ありがとうございました。

-ありがとうございます。

(会場、あたたかい拍手)

永瀬:実は、同じような事がありました。この作品をカンヌ国際映画祭に選んでいただき、エキュメニカル審査員賞を頂きまして、最後のクロージングに監督と行ったのですが、そのあとの居酒屋さんのような場所で軽く打ち上げをしていたら、インド系の女性?が僕と監督のところにお越しになったんです。その方のお母さんが視覚障害の方らしく「ありがとうっていう気持ちを伝えたいんです」って一生懸命言ってくれて。監督とふたりで、この映画を作った意味があったと、歓びを共有したんです。だから今日も、そのように言っていただいてとても嬉しいです。ありがとうございます。

(会場拍手)

永瀬:本当は監督は、正子さんをはじめ、みんな一緒にレッドカーペットを歩きたかったんですよ。でもワンちゃんのこととかいろいろあって。いろんな視覚障碍者の方々にお世話になったので僕も全員で歩きたいと話をしたら、監督も絶対やりたいっておっしゃってたんですけど、ちょっと難しかったので。空気だけ後でもっていってね。本当はみんなで上がりたかったですね、レッドカーペット。

-永瀬さんはカンヌからお帰りになってすぐに正子さんに会いに来てくださって、カンヌの様子を伝えて頂いたり、お土産も買ってきていただいてね。

永瀬:つまらないお土産ですよ(笑)

-ほんとうに優しい方ですよね。

9/30(土)『光』永瀬正敏さん舞台挨拶

永瀬:いやいや・・・実は、この作品をやる前に京都の学生たちと僕が首から下が全身麻痺の役をやった作品があるんです。なかなか難しくてまだ劇場公開できていないんですけど、劇場公開した際にはぜひここでも上映して頂きたいと思います。その時に視覚障害の方ではないですが、そういった障害を持つ方とお話をしました。その内の一人は女性だったのですが、友達の運転している車に乗っていて事故に遭われて首から下が動かなくなったそうで。でも彼女には、介護をしてくれる彼氏さんがいて。彼氏が来るとぱっと女の子の顔になる、いろいろと実状を教えてもらいましたね。そういう沢山の経験値が、雅哉を作ってくれたのかなと思っています。

-この映画は視覚障害の方も随分見に来ていただいていて、やっぱりこの受け入れまでの過程、雅哉が一番苦しいところを描かれているんですけど、そういうことを乗り越えたんだよっていうことを伝えてくださったりして。でももう乗り越えちゃうと本当に明るく皆さん生きていらっしゃって、ひとそれぞれなんですけどね。「辛い」だけじゃないっていうことを、河瀨監督が本作を通して描いてくださったのだと思います。

永瀬:そうですね。あと、ラスト。樹木さんの声で、びっくりしましたけどね。完全なサプライズだったもので(笑)実は『あん』という作品のラストシーンで、樹木さんが、というか徳江さん(樹木さんの役名)がお亡くなりになって、悲しみに打ちひしがれていたんです。僕が哀しみ以上の凄まじい感情を抱えていた時に、監督から、風が吹いたタイミングで「どらやきいかがですか」っていう台詞を言ってくれと言われて。不思議なことに、監督が言うと、本当に風が吹くんですよ。風が吹いた時に、泣きながら台詞を言ったんです。そうしたら監督が寄ってきて、「千太郎(永瀬さんの「あん」での役名)、気持ちはわかるけれど、未来に向かって少し明るく言うのもありかもよ?」と言われて。そででテイク2をやり、そちらが使われたんですけど。確かにそうだな、と思いました。「光」のラストシーンに関しては僕はどちらかと言うと笑っていたかったんですよ。うまくいけば涙がぽろっと、笑顔なんだけど涙を流すという風にしたかったんですが、樹木さんの声が聞こえた途端、号泣しました(笑)全部樹木さんにやられました。説得力のある声ではじまり、最後に“あの台詞”を言われちゃうと、耐えられませんでしたね…。

-すごく美しい光でしたね。だから客性にいる皆さんの涙も、本物だったのですね。

永瀬:全員そうだと思います。僕は本当にそうでした。泣くもんかと思っていたのに出てきちゃったもので。監督~!と思いましたね(笑)

-時間が少なくて本当に申し訳ないんですけど、最後におひとりだけ。

お客様B女性:今日は本当にありがとうございました。「あん」に引き続いていつも素敵な作品で、苦しい立場の人のことを表現しながらも、最後に勇気をもらえる「あん」に続いて今回も希望というか観ていて心があったかくなる作品ばかりで。今後役者さんとしてどのように上手に演じられるか、抱負といいますか、どういう思いで演じられるかというのを伺いたいです。

永瀬:決して上手ではないと思いますけどね。なんて言うんだろう‥。僕はよく言うんですけど、お芝居ってドキュメンタリー以外は嘘ですよね。嘘で作られた世界で役を演じる。演じているから嘘はつくんだけど、そこにもう一個嘘を重ねてしまうと、それはお客さんに絶対見つかってしまうと思っています。だから嘘を真剣に生きる。嘘を真剣に生きるって言うのは、現場では100%の気持ちでは足りない部分がある。150%ぐらいの想いをもっていなきゃいけない。極力その役に対して嘘をつかないように演じよう、っていうのはデビューの時からです。相米慎二監督がそういう監督だったので、そういう癖をつけてもらってよかったのか悪かったのか…(笑)

(会場笑)

永瀬:でも効率は良くないです。本当はこれやりながら、CMをやろうとか、もうちょっと違う作品をやろうとか、テレビドラマもやりましょうとか、その方が効率はいいんですけど、僕はできないんですよその発想が。何度か試したことはあるんですけどね…。でもやっぱり・・嘘を重ねず、その役とちゃんと向き合いたいと、思うんです。
あと今、河瀨監督と新しい作品をご一緒している最中なんですよ。今回の作品は『Vision』という作品で、撮影が前編と後編に分かれていまして。前編は撮り終わったのですが、後編部分がまだ残っています。演者である僕たちも、脚本がどんな展開になるのかまだ分からず、楽しみなんですよね。

-永瀬さんとジュリエット・ビノシュさんとの共演、本当に楽しみですね!

本当に名残惜しいんですけど、時間になりました。永瀬さん今日は本当にありがとうございました。

(会場拍手)

チュプキでの最終上映日を彩っていただきました永瀬正敏さん。トークショーも大変盛り上がり、パンフレットにサインもいただきまして、本当にありがとうございました。

9/30(土)『光』永瀬正敏さん舞台挨拶

(テープライター:加藤 芽実 / 写真:阪本 安紗美)

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