9月10日(日)、映画『光』上映後に、出演された神野三鈴さんを招いて舞台挨拶を開催致しました。
ゲスト:神野三鈴 ヒロイン美佐子の上司 智子/『その砂の行方』時江役(神野)
進 行:平塚千穂子…CINEMAChupkiTABATA代表(-)
-本日は当館に来てくださり、ありがとうございます。
映画の中に、眼鏡をかけた視覚障碍者の女性・正子さんという役で出演されている方がいらっしゃいますが、シネマ・チュプキ・タバタの運営母体シティ・ライツの会員でして、正子さんの出演が決まったことで、私も正子さんの介助という役目も含めて、奈良の撮影所に同行させていただきました。
当館が9月1日で、一周年を迎えまして、「シネマ・チュプキ・タバタ」というあまり耳馴染みのない名前なのですが、アイヌ語で「自然の光」という意味なんです。そういった名前の映画館で、ずっと活動してきたこの音声ガイドという視覚障碍者の方の映画鑑賞をサポートする活動を描いていただいた映画『光』を一周年とともに上映できるというのは本当に感無量です。
はい。それでは、今日のゲスト『光』では智子役、『その砂の行方』では時江役の、神野三鈴さんです!
(一同拍手)
神野:こんにちはー。宜しくお願いします、神野三鈴です。
-よろしくお願いします。神野さん、見るからにすごく優しい方で(笑)
神野:そんなことないです(笑)
-こんな小さな映画館なので、お客様とできるだけ交流がしたいということで、あの、手短に(笑)進行させていただこうと思います(笑)
では、映画『光』に続いて『その砂の行方』も同時に上映しているんですけど、まずは、『光』の撮影に入る前に、『その砂の行方』の撮影から入られたと思うんですけど、河瀬監督とはどのような出会いだったんでしょうか?
神野:『その砂の行方』では時江という女性を演じる役者を探しているということで、映画のプロデューサーさんからちょっと会いませんかということになったんですね…ごめんなさい私普段舞台やってて声が大きいのでマイクなしでよろしいでしょうか?(笑)
河瀬監督との出逢いは、オーディションですね。で、キノフィルムズさんのオフィスでお会いしました。
会議室だったと思いますけど、そこで何人かのオーディションがあるということで、ひと目監督にお会いできるだけでもいい!と思って、行きました。
色々なお話をしてたら、5分くらいで、監督が「で、あの時江をやってもらうにあたって…」って具体的な事をお話し始めたんです。で、「うん。うん。」と頷きながら、「え、やっていいんですか?」って私が慌ててうかがったら、「え?やってくれへんの?」って監督がおっしゃって(笑)そのあとも楽しくお話しして、気付いたら本決定していました(笑)
-たくさんの役者さんがオーディションにいらっしゃった中で、出会って即決だったのですね。
神野:河瀬さんらしいな、と思います(笑)
-そのあとで、智子役を演じるということになったのですよね?
神野:そうなんです。最初私は時江という役だけを頂いたのですが、河瀬監督とご一緒する時は、所謂役作りではなくて、バックボーンを含めてその役を生ることを求められるので、準備の時間とかも必要なんです。
私は時江さんを用意した後に、2日間で撮影をしました。藤竜也さんと2人で、殆どアドリブ!「自由に時江を生きてください」と言われて、で、その時間が余りにも素敵で、「ああ、ずっとこの世界で居たいなぁ」って思ってしまうほど。クランクアップをして「これで終わりです」と言われ、いざ最後のシーンを迎えた時に、「嫌だー!」と叫んでたんですよね(笑)
帰りの新幹線の中かな、監督と「また会いたいねぇ」という話をメールしていたら、「今すぐに会えるように考えてます」って返事が来たんです。(笑)それで「智子で帰って来てほしい」と。でもちょっと、智子さんは元々時江さんと同じ役ではなかったので、「どんな設定に変えていくんだろう」という不安もあり。後日、再集合したのがこの映画館で、水崎綾女ちゃんを中心に音声ガイドのモニター会の勉強をしていました。
田端めがけて走って向かって、モニター会に参加して、平塚さんにお会いして「この人が智子のモデルです」とご紹介いただきました。「三鈴さん、時間ないけどこの平塚さんから頂けるものを全部頂いて、クランクインに備えてほしい」と。クランクインまで、1週間だったかしら。
そこから、ご多忙の平塚さんに無理やりお願いをして、そこのロビーで平塚さんの半生を、ひたすら「こんなこと聞いていのかしら?」っていうことまで質問させて頂きました。ごめんなさいね(笑)
-いえいえ(笑)
神野:色々聞かせて頂いて、なぜこの映画館を作ることになったのか、どんなご苦労があったのか、なぜ音声ガイドが必要だと思われたのか、そして視覚障碍者のご主人をお持ちの平塚さんのお話しとか、いろんなことをお聞きして…ごめんなさい長くなっちゃって。
-いえ、いいんですよ。本当に女優さんなのに、もう1人でぷらっといらっしゃって(笑)本当に神野さんはお話し上手なので私も凄い話しやすくていっぱい話ししてしまって(笑)
神野:本当に宝物、ちゃんと活かせたかどうかわかりませんけど少なくとも平塚さんに色々教えて頂いたことや、平塚さんの人生を伺ってこの映画館の存在を知った時に生半可な気持ちで私はできないなっていう覚悟、それだけは頂いて、なんとか演じることができたと感じています。ありがとうございました。
-ありがとうございました。それで、奈良の撮影は始まったのが去年の10月、1年前くらいだからお話ししたのもその頃ですかね。
神野:そうですね、今頃でしたね…時空がちょっと飛んでて(笑)
-本当に河瀬監督が神野さんと親しく、信頼を置かれてるというのをお見受けしましたので、
神野:そうですか?(笑)
-どの出演者の方も言われるんですけど「魂ごと持って行かれる」とかありますけど、やっぱりモニター会の2日間だけでしたけど、ご一緒させていただいて…まるでドキュメンタリーを撮っているみたいな感じでしたよね。
神野:そうなんです。緊張しますよ。切り取られる台詞を自分の言葉で喋らないといけないので、智子という役を我のように自分が生きる必要がある。今起きている状況を、智子がどう感じてるのかというのは台本に書かれてないから、自分に正直にならざるを得ない。
私は大した人間ではないので、何か装ってもしょうがないので本当に正直でないといけない状況でしたね。
-特にあの、映画の中の映画で主演をし、それの音声ガイドをつくるというお立場になって、難しい状況だったと思うんですよ。それをすごく上手にというか…私すっごく印象に残っているのが神野さんの女優魂というのがね、「役者ってね」というお話をされてたりとか私、ちょっと撮影中に泣きそうになった時があったんですけど。
神野:あらー!(照)
-はい。このあとも「人の人生を生きるってことは、その(映画の中の)人を生きるってことだ」とおっしゃって、それがディスクライバーになってもその映画の人の人生に寄り添って生きるか、それをその人の人生なんだっていう気持ちで…
それは役者もディスクライバーも同じだっていうお話にじんときてしまったんです。そのお話を是非…!
神野:私、平塚さんからお話を伺った時に、 “これを信じたら私、できるかも…”と思った話があって。
平塚さんは、ご主人は視覚障碍があるので、平塚さんの細かい顔色とかそういうことは、視覚的にわからない訳ですよね。貧血気味の日に、今日ちょっと青ざめてるねってという会話がない。でも、平塚さんの身に色々なことが起きた時に、信じられないくらい彼が察知してくれて、それが1人で部屋で悶々としていても気づいてくれたというエピソード。あと、音声ガイドをつけた時に、視覚障碍の方って、想像力の凄さっていうものに教えられることが多かったというお話。
そういった話が、物凄く自分の中で響いたというか、その話を私の中でちゃんと受け取ることができれば、智子を生きられるかもしれないと。映画の中で、私が「彼らの想像力は相当なものよ」と言ったのは、その台詞だけはどうしても言いたいと感じたから。私、視力を失う時期がみなさんそれぞれ違う方にお会いしたんですね。生まれた時からの方もいらっしゃいますし、10代から40代の間に視力を失われた方もいらっしゃいましたし、突然失われた方もいらっしゃいました。
その方達が、それぞれ見えなくなってから観た映画の話しや、訪れた街の話や、人に対する考えをお聞きした時に“素晴らしい人にめぐり逢えた時”の感じをおぼえました。
あとね、自分たちが見えることで怠けていて、実は見えていないものが沢山あることに気づかされた。本当にそういう色々なものを、私たくさん教えて頂いて、その中で感性が非常に合う方とお話が尽きなかった。子供の時にワクワクして本のタイトルだけで私色々物語作るのが好きだったことも思い出したし、あと自分のお芝居を、自分でそのあとの物語を勝手につくったりするのが好きでしたし、元々自由だった自分の想像力や、人の微妙な温度、声の変化・・・そういうことの大事さを改めて教えて頂いて、感謝の気持ちでいっぱいなんです。(笑)なんだか、伝えたいことがいっぱいあって(笑)
-(笑)ありがとうございます。時間も限られてますので、ご質問とか、伝えたいことがございましたら遠慮なくどうぞ。
お客様女性:今日はありがとうございました。よく河瀬監督がシナリオを役者さんにお任せしているという話を先ほど聞いたんですけど、「こういう風にもっていく」という形はあるのでしょうか?
神野:そうですね、それは両方だと思います。なぜならその時起こったことに監督が、「あっ、これはこうしたい」とか興味があると、物凄く貪欲な方なので全部撮っておきます。その過程で「シナリオを任せる」というのがひとつ。最後の編集段階で、テーマに一つに絞りながら作品をシェイプしていくんです。
もうひとつは、やはりどんどん違う方に向かっていくと、次の展開が行われていかない。この映画は、雅哉と美佐子の成長物語なんですが、私たちが凄く違う色を差し込みすぎると、映画の印象が変わってしまうので「こっちの方へ」という誘導して頂きます。
お客様女性:例えば、想像力が足りないのはあなたの方じゃないの?みたいな、さっきもお話ありました。あれっていうのは・・・?
神野:台本にあったんですよ。
お客様女性:そうなんですか?
神野:それに近い言葉が書かれていたと思います。あのシーンはなぜなら、2人がはじめてぶつかるシーンなんですよ。なのでこれは台本上展開として不可欠なシーンなので、それに対する温度とか、どういうふうに言うとか、その前の芝居がどう言うふうに行われるかで違うので、10幾つかな…テイクを撮ったと思います。
この前の、「想像力ないのは雅哉じゃないか」って美佐子が言うシーンも、数え切れないほど撮ったんじゃないでしょうか。やっぱりインパクトがあるシーンなので。これはやっぱり納得いくまで繰り返し繰り返し撮って、いろんなテイクがあって、そのあとの私たちの芝居もやっぱり言い方が変わってきますよね。
お客様女性:ありがとうございました。
-いろんなシーンで悩んでらっしゃったのですね。
神野:平塚さんならどうしてたかなと思って演じてました。ちょうど平塚さんがいらっしゃった時に「平塚さんならどうしますか?」って聞いて、智子はどこにいるんだろうって探していました。
でも智子自体も日々悩んで、日々成長していければいいんだろうと思いつつ、美佐子ちゃんという後輩を指導しないといけないので、どのセリフをどのニュアンスで伝えればいいのか色々考えました。
-「美佐ちゃんもういいよ」っていう部分ですかね? (笑)
神野:私は覚えてますよ(笑)平塚さんは「私、三鈴さんの芝居でいいと思います。一番優しく一番怖い」って言ってくれましたよね(笑)
(会場爆笑)
神野:でもそういうことだと思いました。私は役者なんだと思いましたし、これは智子だから。でも平塚さんはもっと優しいつもりでというニュアンスもあったのかと思いますけど、かえってそれが最高のアドバイスだったと思います。そう言うふうに言える智子で居ようと思いました。
-劇場から、プレゼントの花を…ありがとうございました。
神野:わー!ありがとうございました。うれしー!!
この後もお客様と沢山交流してくださり、ディープなお話も聞かせてくださいました。神野さんお越し頂き、また貴重な時間をくださり、ありがとうございました!
(写真:阪本安紗美)
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