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映画音声ガイド制作者の人材育成と鑑賞ツールとしての可能性を広げる研究

本事業について

合同会社Chupkiは、2001年より視覚障害者の映画鑑賞環境 づくりを行ってきたバリアフリー映画鑑賞推進団体シティ・ ライツを母体として、視覚障害者のみならず、どんな人でも 安心して映画を楽しめるユニバーサルシアターを2016年に OPEN。開業から今日まで、来館者の声を聴く中、音声ガイドの 可能性がもっとあるように感じてきた。目が見えていた頃に よく観ていたクラッシック名画をもう一度観たいという視覚 障害者の要望は高い。一方で、一般客には字幕離れが進んでおり、 目が疲れるため外国映画を観なくなってしまった高齢者、若年 層も多い。現在、映画の音声ガイド普及率は全体の1割程度。 そのほとんどが邦画という現状で、Chupkiはこれまでボランティアの協力により外国映画の音声ガイドや字幕朗読(ボイス オーバー)を自主制作してきた。しかし、原稿料や出演料を きちんと支払えるようにしていかなければ、なかなかスキル アップもはかれず長続きもしない。そのためにも、音声ガイドや 字幕朗読の利用者を増やし、外国映画のバリアフリー化もより普及させ、スタンダードにしていきたいと考えた。

そこで、本事業ではジャンルの異なる3本のクラッシック洋画『駅馬車』『三十四丁目の奇蹟』『カサブランカ』を題材 として、字幕朗読を含む音声ガイド制作のスキルアップを はかった。その成果物は上映時に一般客にも聴いていただき、 映画鑑賞ツールとしての可能性を探るアンケート調査も行った。 そして、上映後にはワークショップを開催し、音声ガイドが、 映画らしさや映画のおもしろさを引き出す装置として有効かどうかを検証した。 本ページは、この事業の一連をまとめた報告レポートであるが、 音声ガイドの制作→バリアフリー上映→視覚障害者との語り合いの一連のモデルは、学校教育や生涯学習、市民上映会などのイベント企画にも活かせるのではないかと思う。制作した音声ガイドや字幕朗読の音源は、全国バリアフリー上映 サポートネットワークで貸出も行っている。制作にハードル があれば、まずはバリアフリー上映→語り合いだけでも、 さまざまな場面で実施してみていただきたい。

【助成】公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

字幕朗読 (ボイスオーバー)と音声ガイド制作のプロセス

字幕版しかない洋画を視覚障害者にも鑑賞できるようにするためには、まず、セリフ情報となる 「字幕」を音声化する必要がある。これは吹替版を作るように、声優をキャスティングし、朗読してもらう。映像の視覚的情報を補う音声ガイドナレーションはこの字幕朗読の間に挿入する。音声ガイドの台本制作は、講座の修了生がスキルアップのため4~5人で分担。視覚障害者モニターも参加し、複数の目と耳で台本の推敲を重ね、仕上げていく。

 

 ● 字幕朗読(ボイスオーバー)

 上映実施  2.5ヶ月前…
キャスティングディレクターに素材渡し→台本作成とキャスティング
(ボランティアが書き起こした字幕テキストデータとDVDをキャスティングディレクターに渡し、字幕に役名を書き添えて台本を作りながら、声優のキャスティングをしてもらう。※声優は1本の洋画で10人〜15人。名前のある役を各自に割り振ってから、端役をキャスティングしていく。端役が多ければ一人5〜6役担当するも。)
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 2ヶ月前
台本完成/キャスト発表/素材渡し→練習
(全声優に練習用DVDと台本を郵送し、各自練習に入ってもらう。)
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 6週前
スタジオ収録

(上映時は、イヤホンを使って聴いていただくボイスオーバーとなるため、吹替版のように、原音のセリフを消して吹き替えるものではない。原音のセリフは場内スピーカーに流れるため、原音のトーンや芝居とズレてしまわないよう注意しまながら演出する。演出は、録音・編集の技師が担当する。)
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 5週前
編集仮完成
(収録時に読み遅れたタイミングや音量を調整して字幕朗読入りの本編映像を作り、音声ガイドチームに送る。音声ガイドチームはその映像で、セリフの隙間の尺を図り、音声ガイドの見直しや細かいチェックをしていく。)

※4週前〜2週間前までに音声ガイドチームからセリフの変更要請があれば、修正部分だけハメ録りをして直していく。
(例えば、字幕には名前の呼びかけがなくただ「ありがとう」と表記されている場合、声の判別も難しく、誰が誰に向けた言葉なのかわかりにくいところを、音声ガイドで補う尺がなければ、字幕朗読で「ありがとう、リック」と付け足すことで、誰に言ったのかがわかりやすくなる。)
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 2週前
編集完成
(完成した字幕朗読入りの本編映像に、音声ガイドナレーションをはめ込んでいくため、ナレーション収録の前に完成させる。)

 

 ● 音声ガイド制作

 上映実施  2.5ヶ月前
制作者募集呼びかけ 定員4〜5名(講習会修了生に限る)
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 2ヶ月前
チームメンバーが決まり次第、分担。メーリングリストを作成し、音声ガイド制作用エクセルと映像素材を送る。
・エクセルにはセリフの隙間に音声ガイド文を挿入できるように、字幕朗読台本のテキストを流し込んでおく。
・映画の時間をチームの人数で割り、ガイド制作の担当箇所を決めておく(分担一人あたり約20分〜30分目安)
・映像素材はまだ字幕朗読なしの原音素材をmp4で配布。まずは原音の尺にあわせてガイド制作を行う。
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 6週前 
初稿すりあわせ

それぞれ作ってきた初稿の音声ガイドを、映像にあわせて各制作者に読んでもらい、すり合わせを行う。
・作風に応じたガイド制作の方針を固める。(文体、テンポ、時代背景など)
・分担制作ゆえに起きる表現のバラつきを統一する。(例えば、憲兵・警官・警察官の使いわけなど)
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 5週前
修正第2稿 提出
初稿すりあわせで統一した言葉や指摘された箇所を修正し、2稿目の原稿を、MLに提出する。
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 4週前
コメントつけ合いっこ
他者が担当しているガイドの2稿をチェックし、それぞれ気になった箇所にコメントをつけて提出する。つまり、自分の提出した2稿に3人〜4人の目が入り、違和感のある部分などにコメントがついて返ってくる。
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 3週前
3稿提出&モニターチェック
皆からもらったコメントを参考にガイドをさらに修正し、3稿を作る。仕上がった3稿の音声ガイドを字幕朗読付きで視覚障害者モニターに聴いてもらい、意見を聴きながら、さらにブラッシュアップしていく。
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 2週前
4稿提出&ナレーション収録
ナレーションは全編を1人で行う。あまり抑揚をつけ過ぎず、映画の波に自然に乗っているのがちょうど良い。悲しいシーンではもの悲しく。楽しいシーンでは明るく、アクションシーンはテンポよく歯切れ良く。
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 1週前
編集後、完成
字幕朗読とナレーションのタイミング・音量補正をし、バックノイズ除去などの整音をして仕上げる。

 

 ● 参加者のコメント

音声ガイド制作に参加して (西村 葉子)

目が不自由な人にとって「映画を見る」とは、スクリーンの前に座ることではなく、映画の中に入り込む時間だとか。素敵だなあ。 それなら存在を忘れるほど自然な音声ガイドを作り、いっしょに映画の中に入りたいと思った。でも、すぐに道の遠さに茫然とした。 どこにどんな言葉を、どう入れる? 判断の物差しはひとつではなく、選ぶのに迷う。物差しに気づいているときはまだいい。 視野の狭い思い込みに顔を赤くすることもしばしばだ。ガイド制作はこの世界のパイオニア・平塚さん、モニターさん、 数人の仲間と共に、書き直しを重ねながら進める。この仕組みが最高! みんなの力が精度の高い物差しになって、やり直すたびに「忘れられるガイド」に近づいていく。

 

ワークショップ 実施報告

2019年9月と12月に、音声ガイドを活用した映画鑑賞ワークショップを実施しました。「映画らしさってなんだろう」というテーマで複数の参加者が鑑賞の経験を持ち寄り語り合う 場をつくりました。このプログラムの目的は音声ガイドを活用して、私たちが映画を見る 経験とはどんなものかを考えることです。経験とは必ずしも全員がピタリと一致するものでは なく、少しづつ異なったりズレているかもしれません。そのズレた経験をこそ言葉にする場をつくりました。
(※ 2020年3月に予定していたワークショップは新型コロナウィルス感染拡大防止のため中止しました。)

ワークショップ の 概 要

参加者を募集するときにオススメの参加条件として「対象の映画作品を 見たことがある人」としました。集まったのは、視覚障害があり音声ガイドを使って鑑賞した人、晴眼者で音声ガイドを時々使った人、ずいぶん昔に 映画を見た人、などなど同じ作品に対して異なる鑑賞経験を持つ方々でした。

 

 ● ワークショップの特徴

❶  参加者の印象に残ったシーンを繰り返し再生する (音声ガイド付き)

❷ 目の見える人と見えない人が 複数で見る

❸ 見たこと感じたことを言葉にする

● ワークショップのようす

「駅馬車」ワークショップチラシイメージ画像2019年9月29日「駅馬車」編

この映画には魅力的なキャラクターが多く登場し、立場の違いから様々なドラマが生まれます。アクションシーンも多くエキサイティングな 西部劇です。ワークショップでは物語に沿った感想だけではなく、小さなディテールが発見されていきました。話は小さなディテールから 数珠繋ぎに広がって、当時の文化、職業観、人権観、などに話が及びました。

【女性たちの仕草】
駅馬車の音声ガイドを作るときに序盤のあるシーンがちょっとした検討の対象になりました。 そのシーンは、酔いどれ医師の ブーン先生という登場人物が 婦人会と呼ばれる当時の上流階級の女性たちに対して軽い挨拶をするというシーン。挨拶を受けた 女性たちが露骨に険しい表情をしたり、目を覆ったりと、現代の私たち の感覚で見るとやけに大げさに嫌がる仕草に見えるのです。ワーク ショップでは、仕草がなぜ不自然に見えるのか、を話しました。どうやら私 たちは映画を見るときに、西部開拓時代(1880年代アメリカ)の価値観、 映画が制作された時代(1930年代アメリカ)の価値観、鑑賞者が生きる 現代(2020年代日本)の価値観、など異なる時代の女性観、職業観、 人権観をすり合わせて鑑賞しているので、その価値観を理解できない ときに違和感を感じるのではという話になりました。明確な答えに 行き着いたわけではありませんが、では音声ガイドの言葉はどの時代に 合わせれば良いのだろう、とおもしろい問いも生まれました。

駅馬車イメージ画像

【馬車の追撃シーン、どこから見てた?】
映画史の中でもアクションンシーンとして名高いハイテンポ な駅馬車の追撃シーン。音声 ガイドの言葉も、短い時間に 必要最低限の言葉を配置しています。ワークショップ参加者の皆さんにこのシーンをどう経験したかをお聞きしました。視覚障害の Uさんはこのシーンを例えるならスタジアムでの野球観戦のように 観たそうです。全体を俯瞰しながら戦況に応じて特定の選手や ボールに視点を切り替えるように、この追撃全体を俯瞰しながら音声 ガイドのアクション描写に応じて、逃げる主人公や追うアパッチ族に 焦点を絞るそうです。Uさんがガイドの言葉や音でアクションを読み 取るのに対して晴眼者の参加者の多くはカメラが何をどのように映すかによって物語の意味を読み取っていました。ひとくちに映画鑑賞と 言ってもその経験は共通点もあるし相違点もある。一様ではない ことの複雑さがわかるお話でした。

 


映画らしさってなんだろう 三十四丁目の奇蹟編ワークショップのチラシ画像2019年12月22日「34丁目の奇蹟」編

アメリカではクリスマスに観る映画として定番のヒューマンドラマのクラシック作品です。ニューヨーク34丁目にあるメイシー百貨店に現れたサンタの 別名「クリスクリングルス」を名乗る変わり者の老人。彼は本物のサンタなのか?視覚的には証明困難な謎、つまり目に見えない意味こそが本作の 見どころです。だからこそ音声ガイドによる目に見えるディテールや人々の描写が大事な作品でした。

見えない顔をガイドする
この映画の冒頭は謎めいています。顔の見えない紳士がニューヨークの街を歩いていく、その背中から物語が始まります。こういう時に音声ガイドの役割とは、紳士の顔をすばやく明確に描写することではなく謎とともに歩き続けることなのだという話をしました。思えば映画って遠回しな表現や、間接的な表現の連続です。「(誰だか)分からない」という謎に出会うことが映画ならではの醍醐味かもしれません。

動きの音声ガイド】
この映画の中で物語を推進する重要なアイテムが「手紙」です。この手紙がどこからどんな風に運ばれてくるのか、という動きの描写はとてもワクワクするポイントだけに音声ガイドの頑張りどころの一つでした。視覚障害者の参加者のOさんは「描写するときに数量を明確にしてしまうと動きが止まってしまう感じがする。あえて曖昧な言葉の方が出来事が動き続ける現場に立ち会っている感じがする」とおっしゃっていました。映画における動きを伝える言葉とはどんな言葉が良いのか、その難しさについて話しました。

【時間の経過は目に見える?】
映画終盤の法廷シーンでは「時間の経った法廷」という言葉が音声ガイドで伝えられます。視覚障害の参加者Uさんから晴眼者の参加者へ「時間の経過ってどう見えるの?」という質問がありました。言われてみれば、目の見える人は視覚的には見えないはずの時間の経過を様々な映画的な技法から読み取っています。例えばこの法廷シーンでは、異なる二つの法廷の場面を少しづつ重ねるオーバーラップと言われる映画技法によって時間の経過を表しているわけです。普段は無意識に使い分けている晴眼者、視覚障害者それぞれの映像のリテラシー(読み解く方法)を交えて映画について話すことは新鮮な驚きに満ちた時間でした。

 

 ● 参加者のコメント

音声ガイド制作とワークショップに参加して (田中 正子 <視覚障害者>)

今回、『駅馬車』『カサブランカ』の2作品の音声ガイド製作に参加させていただきました。モニターとして関わらせて いただくため、事前にガイドが無い状態で両作品を鑑賞しました。いったいこれらの映画はおもしろいものなのだろうか? セリフと本編の音だけでは分からないことが多いため、この段階ではつまらなく感じました。 ところが、ガイド製作者の方々が良く調べ、的確な言葉でガイドを付けてくださると、モニターの私はスクリーンの フレームなど取っ払い、自ら作品の舞台の中で呼吸をしているのです。音声ガイドが登場人物に命を吹き込み、舞台と なる土地の空気をもたらします。今回初めて音声ガイド製作に関わられた方もおられましたが、出来上がったガイドの 出来栄えは、私を映画の舞台に引き込み、時に笑い、時に涙しながら存分に楽しませてくれる素晴らしいものでした。 ワークショップでは3、4カ所をピックアップし、感想をシェアしました。対等に意見交換が出来、共に学び合える貴重な 時間となりました。視える方々が音声ガイドを聴き、見落としていた物に気付かされた、より臨場感を感じたなどと話さ れたことは、音声ガイドが視えない人のためだけのものではないという広がりをも感じます。様々な日常を過ごす方々と、 ひととき同じ映画について語らう。実りある至福の時間をいただき感謝に堪えません。

 

アンケートについて

上映がはじまる前にアンケートの趣旨を説明し、一般の ご来場者のうちご協力いただける方にのみご回答いただ きました。(アンケート協力者46名)

▶『三十四丁目の奇蹟』は中学生以下のお子様にも観てもらい たかったが、ご来場自体なかったのが残念だった。
▶3 月の『カサブランカ』上映時は、新型コロナウイルスの 影響で、シニア層のご来場者が激減し、人数に影響しているが、 通常であればシニア層の割合は、60% 以上を予想していた。

▶「どちらともいえない」の方の理由をうかがう質問は なかったが、3や4の自由回答でいただいた「作品による」「吹き替えによる」などの回答が理由だと思われる。
▶「悪かった」という回答が0だったのは、喜ばしいこと。

▶話が途中で追えなくなった時にサポートとなって助かった。
▶字幕とセリフが違うのが、むしろ面白かった!(同意見 3 票)
▶一長一短。ガイドが思考や思いの邪魔をする場合がある。
▶ガイドの解釈が自分と違っていて面白かった。
▶文字と音の違い、理解度をよく考えて制作されていてよかった。
▶見逃していた演出に気づけたり、見分けのつきづらい海外の人がわかりやすかったり、かかれている文字や海外特有 の文化を理解しながら見ることができた。

▶名前は音声でわかりやすかったが、場面の説明は不要な所 もあった。
▶情報量が多く、楽しめたが疲れた。
▶字幕朗読の声優による。ガイドとのバランスを考えて作るとよいと思った。
▶ナレーションだけ、字幕朗読だけを選べたらよいと思った。
▶視覚障害の方にはとてもよいサービスだと思うが、晴眼者には不要。
▶原音の役者の声をちゃんと聴きたい時もあるので。

 

「映画音声ガイド制作者の人材育成と鑑賞ツールとしての可能性を広げる研究」のまとめ

 音声ガイド制作は昨年度までに実施した講習会の修了生から希望者を募り1作品4~5名の分担制で制作した。それぞれの担当しているシーンを互いに チェックしあい、最終的には視覚障害者モニターや作品に造詣の深いものが監修に入ることで、複数の目と感覚で違和感のないものへと客観性をもたせ ていくことができる。また、ジャンルの異なる3作品の制作を通じて、それぞれに会話のテンポや作風、時代背景も異なるため、気遣いもかわる。音声ガイドが型通りには太刀打ちできず、作品やシーンに応じて臨機応変に対処していかなければならないことを改めて実感できたのではないかと思う。また、本事業では音声ガイドの鑑賞ツールとしての可能性を広げる研究も含んでいたため、視覚障害者以外の一般のお客様の鑑賞を助けるツールとして、目が見えていてもわかりにくいことも、さりげなく補う配慮をした。古い映画はセリフで多くを語らない。説明もしない。ちょっとした会話や仕草だけで、その人物がいかに周囲の人々に蔑まれていた存在だったか?その地域では、どことどこの国が小競り合いをしていたか?などを 想像させるシーンが盛り込まれていた。それらは、映画の舞台になっている国の歴史や時代背景、独特の文化を知らないとニュアンスが伝わりに くい。音声ガイドで補ったところもあるが、字幕朗読がセリフを変えて補うなどの工夫もした。

音声ガイドを一般の人にも聴いていただいたアンケート結果では、85%の方に「聴いて良かった」という回答をいただけた。「名前を言ってもら えるのでわかりやすい」「字を追わなくてすむので楽だった」といった鑑賞において、理解のハードルを下げる点での好評もあれば「自分だけでは 気付かない表情や背景もわかって、映画をより深く楽しむことができた」「海外特有の文化を理解しながら見ることができた」等、作品をより深く 楽しめるという点での好評もあった。一方で「自分が物語のポイントと思うところがガイドされていないので違和感があった」「作品に一致していない 演技があった」「場面の説明が不要な所もあった」という感想もあり、人それぞれの感じ方や、要不要の尺度の違いによって違和感や不快感を生じさせてしまうこともあり、音声ガイドとして情報を絞り込んでいくことの難しさも感じた。

ワークショップでは、音声ガイド特有の時間制限という枠を外し、鑑賞後に様々な人と、気になったシーンについて語り合うことによって、さまざまな感性の違いをも共有できるという自由なスタイルで進めていった。この手法そのものが、音声ガイドの新たな可能性といっても良いかもしれない。文化の違いや歴史的背景だけでなく、演出手法やカメラワークなどにも話が及んだ。本編を音声ガイド付きで鑑賞できればこそ、この場に視覚 障害者も参加することができ、視覚障害者が投げかける疑問や感じ方をシェアすることで、映画的な視覚的演出によって、私たちがどんな印象を与えられているのか?に逆に気づかされるような場面もあった。ワークショップにより、作品の鑑賞の幅がより広がり、豊かになったように思う。 総じて、音声ガイドは、視覚障害者だけでなく、映画を難しいと感じる人や鑑賞に疲れてしまう人々にも、作品への距離を近づけ、より多様な人々との 語り合いを促す、架け橋となるツールと言える。一つの映画を多角的に味わい尽くすことで、また映画らしさや映画の魅力を発見できるツールとも言える。

(合同会社 Chupki (シネマ・チュプキ・タバタ) 代表  平塚 千穂子)


 

「映画らしさを語り合う」

音声ガイドを活用した鑑賞ワークショップの内容として「映画らしさ」について語りあうプログラムにしたいと思いました。これまで「映画」という文化は主に晴眼者を対象として作られてきました。しかし近年、音声ガイドというツールによって視覚障害者も映画を楽しめるようになりました。音声ガイドによって、映画を楽しむ人々の裾野が広がり、映画とは「目で見る」経験だけではないもっと多くの豊かな経験を生み出していることが明ら かになってきました。そして今「映画」の定義はとても曖昧に変化しており人それぞれの映画らしさが重なり合って形作られているのと思います。目の見える人にとっての映画らしさ、目の見えない人にとっての映画らしさがあるのだとしたら、それをたった一人で見つけるのは難しいことです。

私たちの 経験はどのくらい同じなのかどのくらい違うのかを考えるために、目の見える人と見えない人が複数集まってワークショップを開きました。 集まった参加者には印象に残ったシーンについて語ってもらいました。同じ作品の同じシーンでも鑑賞の経験が同じとは限りません。例えばとある法廷のシーンでは、目の見える人と見えない人が映画内の時間の経過を別々の方法で読み取っていたことが語られました。これを視覚障害者のUさんは「自分の文法で映画を享受することも面白いけど、目の見える人の文法を知ることも面白い(筆者要約)」と、映画そのものだけでなく他者の見方が面白いと語ります。そして、晴眼者の参加者Mさんは「映画を見るときにストーリー(登場人物のドラマ)を消化することになってしまいがちだけど、 皆さんの話を伺うと、細かな表情、時間の流れとか、映画の中に躍動しているいろいろなことを感じることができておもしろかった(筆者要約)」と、 人と話すことで自分だけでは知りえない新たな「映画らしさ」を一緒に発見できたおもしろさを語っておられました。

このようにワークショップは、参加者それぞれの思う映画らしさが語られ、それが別の参加者に受け取られ、みんなで一緒に新たな映画らしさを探っていくような場となりました。音声ガイドによって視覚障害の参加者が映画を鑑賞可能になっていたのはもちろんですが、複数の参加者同士の対話が可能になっていたのも、音声ガイドというツールがあったからこそです。音声ガイドは、視覚障害者が映画を楽しむための架け橋のようなツールでもありますが、視覚障害者のためだけでなく異なる経験を持つ他者同士が対話を可能にするテーブルのような役割もあります。目の見える人と見えない人が一緒に映画らしさを発見できるツールでもあるのだと思います。今後も新たな映画らしさを探るためにいろいろな人と経験を語り合う場を作っていきたいと思います。

(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ代表 林 建太)

 

 ◎視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップとは

2012 年発足。全国の美術館、学校などで、毎月一回のペースで活動する任意団体。 目の見える人、見えない人、異なる属性の人が集まり言葉を交わしながらさま ざまな視点や経験を持ち寄って「みる」ことについて考えるプログラムを企画 運営している。
フェイスブックページ  https://www.facebook.com/kanshows/

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