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11/25(土)『トークバック 沈黙を破る女たち』坂上香監督、上岡陽江代表トークショー(後半)

11月25日(土)、映画『トークバック 沈黙を破る女たち』上映後に、舞台挨拶を開催致しました。
トークバックトークショー
【ゲスト】
・坂上 香 監督…表現系NPO法人 out of frame 代表(坂上)
・上岡 陽江…ダルク女性ハウス 代表(上岡)

前半の記事はこちらです。

まさにトークバックじゃないですか!

坂上:その言葉を聞いて「ああ、映画つくってよかった。」って思いました。そして、彼女は80人程の前で「私は誇りをもってこの映画の編集に一緒に関わってきたんです!」って。あっ、そう言う風に思ってくれてたんだって。「最初に見たときに衝撃を受けました。」「私はあそこには今は立てないけどでもあの人たちが言っていることは私もすごくよくわかるんです。私があそこに立っているようなものなんです。」「私は10年後くらいにはあそこに立ちたいです!だからそうは思いません!」って(笑)私鳥肌立って涙出ちゃった…その約1年後、東大での上映会でもその人が来てくれたんですが「あれ?私そんな事言ったっけ?」くらいな感じでしたよ(笑)「何であんな事言ったの?」って聞いたら「だって坂上さんが責められててかわいそうだと思ったから。」って(笑)私を守ろうとして言ってくれたのを1年以上経って判明したということです。なんと情けないことか(笑)

上岡:言葉ってそうやって獲得されていくんだなって。彼女は「自分はそう思いません!」を言葉として獲得したんだなって。それはすごいびっくりしたことでした。
実はこのエピソードはこの業界では有名でして(笑)自分の物語を書いたり、それをみんなでブラッッシュアップする中で、みんながはじめて言葉を獲得していく。だから変わっていきますよね!職業柄、人が変わっていくのを見るのが多い中で、はっきり変わっていく様は本当に素晴らしいと思います。
まぁ、これは坂上さんが本当に大変だったからね。今、坂上さんは日本の刑務所の映画を撮っています。そういう中で、言葉を語ることを教えられなかった人が犯罪に行かざるを得ないところがあって、それを暴力でしか表現できない…ということが起きています。今、日本の男性たちが本当に自分のことを語ってるのは刑務所の中だけです。日本では、男性たちが自分の感情や被害体験を語る環境が備わっていないんですね。

(会場どよめき)

坂上:結構時間が経ってしまったので、みなさんはどうですかね、何か思ったこととか…

お客C男性:映画とちょっとちがう質問ですが、チュプキはイヤホンで音声ガイドが聴けるじゃないですか、僕、先週聴かせていただいたんですが、このガイドと監督ってどのように繋がっているのかを知りたいです。

坂上:すごくいい質問ですね!皆さんそもそも音声ガイドってご存知です?視覚障害者の方が音だけで映画を観るということなんです。私も衝撃でした。2、3年前だったと思いますけど、平塚(CINEMA Chupki TABATA代表)さんが音声ガイドをつくってくださり、私はプロセスがわからなかったので丸投げしました。できたものを映画館ではじめて目をつぶって、音だけで聞いたら衝撃でしたよね!

同時に「次の作品は一緒に作らせてもらおう」と思いました。この映画って英語じゃないですか、いろんな音声や音楽も説明も入るんですよ。日本語吹替えも加わるので、聞き分けるのも難しいと思ってました。でも観終わった後、トークセッションに視覚障害者の方が何人かいらっしゃったので、その方たちとお話すると映画のエッセンスをきちんと理解できていました。だけど、細かいニュアンスは不十分なところがあったので、今度の日本の刑務所の作品の音声ガイドをつくる際には、是非関わらせてくださいって決めたんです。作り手の聞かせたいところ、バックの音・ボリュームとかそういうのを一緒に作って、もっと親近感をもてるものにしたいと思いますね。

お客C男性:今日は音声ガイド無しで観ましたが、僕はガイドを聴いたほうがわかりやすかったんです。なので映像だけでなく、ガイドのおかげで抜けてる部分がフォローされていてすごくわかりやすい!それが監督の意図としてガイドをつくられたのかな?それを知りたかったということですね。
トークバックトークショー
坂上:素晴らしい!(笑)音声ガイドをつくるきっかけとなった人のお連れ合いの方が先週チュプキに観にいらしてて、もうその人はお亡くなりになられてたんですよ。全盲で、映画の封切り時、渋谷のイメージフォーラムへ観に来てくださったんです。その時は音声ガイドはありませんから、ボランティアの方が一緒に来られて観ながら直接ガイドをされてました。台本は渡してませんから今見たものをすぐにお伝えする…本当に大変だったと思います。それでお客さんが泣いたり笑ったり、感情豊かに感動してくださいました。

映画館(シネマ・チュプキ)ができる前進のアートスペース・チュプキで、ボランティアの方が映画を上映されてた時に「そこで是非やらせてください」っていう依頼がきて「こちらからもお願いします。」って阿吽の呼吸でその企画が動き始めました。そこで上映していただき、その時に何回か足を運んでトークをしたことがありました。当事者の方がつなげてくださったんです。何で全盲の人が映画を観てそんなに笑ったり泣いたりするんだろう?って不思議だったんですけど、先日お連れ合いの方にお会いしてわかったのは、全盲の人は、病院で依存症の方のソーシャルワークをされていたそうです(笑)…ああなるほど。そういう活動をしてたからこれは響いたんだなって。

上岡:面白いね!
トークバック!
坂上:面白いでしょ?他はどうですか?

お客D女性:はじめまして。バックグラウンドは全く存じ上げず、そもそも坂上監督が何故こういう映画を撮ろうと思ったのかというのと、つくるのに12年…そして次の映画へもずっと坂上さんを動かしていく動機や「今後こんな世界になったらいいいな」とか、そういうものを聞かせていただけたらと思います。

坂上:私もいろんな当事者性を持っています。中2ぐらいの時15人くらいからリンチに遭ったり、表向きには普通の中流階級繕ってるけど実は家庭崩壊してて、親がすごい借金負ってて、母も父も全然口聞かない状態で…すっごい厳しく育てられたり、きょうだいにちょっとやばいのがいたりで(笑)いろいろなものがあります。だからこれは人ごとじゃなく、自分ごとなんです。

アメリカの大学に行ったのも、あまりにも日本の社会に絶望していたから逃げたかったんです。大人になって帰国すると、上岡さんもそうだけど「助けてくれる人いたじゃん!素敵な人いたじゃん!」って。私が中学の時にみんなどこにいたの?って(笑)誰もいなかったんですよ。時代もあるし、本当に取り繕う家庭だったので、外に相談に行く発想すらありませんでした。そういう中で母親と1年間喧嘩して海外へ出るんだけど、行った先の唯一の受け入れ先である友達や、まわりが皆ヤク中みたいな所でした。

私がヤク中にならなかった理由は、私の世話人のペニーがひどいヤク中だったから。ペニーから電話で「香来い。」って呼ばれて行ったら倒れてるんですよね。注射器が部屋に落ちてたりして「ええー?」って。私はこの人に面倒見てもらうはずじゃなかったのかって。で、母親から「ペニー元気?ペニーに迷惑かけてない?」って聞かれるんだけど「反対だよ!こっちが面倒見てる。」って、心の中で叫んでた(笑)」たまたま面倒見る側にいたから「こんなに恐ろしいものには手を出さないぞ!」と(笑)なっただけで、でも他ではワーカーホリックだったりジャンクフードホリックだったりいろんな依存的な傾向もあるわけだし…暴力をうけたことで、何かしら加害的な行為に走るわけです。家族の中では一番立場の弱い者を徹底的にボコボコにするとか。単純に「被害」だけでは終わらないことを自分も体験してるんですよね。

上岡:すごい「被害」を受けると「加害」をせざるを得なくて、すごい被害者なんだけどその裏腹で加害者という人がずいぶんいらっしゃいます。実は坂上さんもそういうのがあって、支援が必要だったんですけど、なかなかそのようにはいかなかったですね。

坂上:私には映像があったから「映画」表現で生き延びて来たのかなって思います。
あとは、10代から海外に渡ったことが大きいです。私はそこでも被害感にしがみついていて、アメリカでよくパーティとかやるじゃないですか?そこに招かれて「日本から来た」と言うと「日本ってすばらしい国だね、教育も素晴らしいし。」って言われると「何言ってんだ!その教育で私はボコボコにされたんだよ!」ってブチギレて、皆が「香怖い」って凍りつくという(笑)そういう大学時代を過ごしたんですけど。

(会場爆笑)

そのあと渡った南米コロンビア、チリ、ペルーとかでは、なんだ私の被害なんて被害の「ひ」でもなかったって言いたくなるくらい独裁政権下で拷問があったり、家族が殺されたり、誰かが失踪したとか、そういう人たちにいっぱい会うんです。
私は大学の時にアムネスティ・インターナショナルという人権NGOの存在を知りました。最終的には映像を通してもう50歳を過ぎてますが(笑)『暴力』が私の活動の全てのベースにあって。で、私は自分が子どもの時に、学校でも助けてもらえなかったので、子どもが助けてもらえるような環境を作りたいと思って、活動をしているんですね。

ドキュメンタリーって終わりがないんです。終わりなき編集と撮影で(笑)国内の刑務所の撮影も終わってて、もう一年も経っちゃってどんどん古くなっていってどうしようか焦っています(笑)
今は嫌がられるんだけど出所した方が何人かいらっしゃって、その方のその後を追ったりしていますが、どこまで追えば終わるんだって(笑)テレビじゃないからデッドラインがないんですよね。そう言う意味でいうとこの映画もどこで終わろうか迷いました。

2010年にこの演劇が上演されてたので私の中ではその上演後すぐに編集して翌年にはクランクアップと思ったんだけど、そのころ大学勤務で全然忙しくって…頭がクリエイティブにならないんですよ。それで、この映画をつくるために大学のお仕事をやめちゃったんです。無謀だってみんなに言われましたけど(笑)

まずは大学勤務時に調査費でアメリカに飛びました。2年後にどうなったのか様子を見に行ったんです。そしたらみんな元気に頑張ってたんですけど「みんなこうやってます」というのは他の映画であることだし、つまんないと思って、特に変わった2人にフォーカスしました。
マルレネっていうオーストリアの女の子は、「香、すごいことが起こったんだよ。」って報告してくれて、これは絶対に聞かなきゃって思って、あと別れるって私は思ってたんですけど(笑)カサンドラが彼と別れたと。その理由がこうこうこうでって3ヶ月くらいで出て行ったって話を聞いて、当事者にとって別れるって簡単なことじゃないんですね。特にHIVで自分を愛してくれているって思ってたので、それを断ち切るのって大変で…絶対これも聞かなきゃと。その2人に会うためにわざわざスタッフ連れてまた戻って来て終わろうって思ったんですよね。

上岡:別れられたってのが凄いね。

坂上:はい。ほかはどうですか?
トークバックトークショー
お客E女性:私はチュプキの壁画を描かせてもらった者です。私自身も機能不全家族からハラスメントもたくさん経験して、アートに助けてもらった経緯があります。
自分に対しての一番の暴力は、自分に対して否定とか罪悪感を向けちゃうことで、自分に対してため込んだ怒りを外に出すのが、他者への暴力になるんだと感じています。そういった中で映画含めるアートは『今ここ』に集中できるので、それがすごい救いになると思っています。

自分に向けた筈の暴力を、他者に向けるという悪循環を解消するものとして『今ここ』を増やしていきたいと思い、アートセラピーといった活動をさせていただいたりとか…そういった『今ここ』をもっとみていけるような土壌について、日本はアクションの可能性がすごく少ないと思うんです。アイデアみたいなのをひとついただけたらなと思いました。

坂上:アイディアならいくらでもあります。

私はNPOをやってるんですけど、私が映画づくりに重きを置いちゃっているのと、あと高齢化で(笑)病気になったりとかね。スタッフにも軸になってた人が歯抜け状態で、今そういう活動が継続的にやっていくこと自体難しくなってきています。昔はもっと瞬発力があって皆が「大丈夫かい?」っていうくらい走って色んな活動をやってたんですけど、なかなかそういうインフラができにくいんですよね。あとはもう、当たり前だけど、やりたい人がやれるところで「やっていくしかない」かなって。

まずは、もう活動をやってらっしゃるんならそれを続けて、そこに来てくださる方を見つけて活動を広げていけるほうがいいかなあ。私のout of frameは、もう10年以上前から続いてますが、最初は私の家の居間からはじまったんですよ(笑)そういうところからはじまって、私はやってますけども。

お客E女性:「家から」というすごいアイデアをいただきました。ありがとうございました。

上岡:先日、専門が薬物政策の方が日本にやってきました。アクティビストという非常に新しい活動をされている方で、薬物は虐待と深く関係しているので、経済的な問題と教育・虐待は全て関わる必要があります。その活動の考え方は「薬物の問題が解決すると社会の底辺が上がる」と「他の人の人権も上がる」というものなんですよね。

(会場どよめき)

坂上:現状は発想が本当に逆。「あいつら(受刑者)に税金をかけてそんな贅沢させて」みたいな。皆で下がっていく発想ですよね。

上岡:だから『被害者支援』という言い方をやめようと思ってます。今は虐待問題が出ると『被害者支援』って言うんだけど、これは被害者を支援しているんじゃなくて、私たち社会を支えている当事者ですよね。私たちが社会を支えているのでそのような言い方はやめていった方がいいなぁって。そこが安定するってことは、社会を安定させるんだ!って考えに変えたほうがいい。

『被害』者は外部の特別な人…というわけではなくて『加害』をせざるを得ない人たちにも理由があるの。これは暴力のリンクだったり、今の日本だったら社会的な行動の問題であったりとか…昨日、駒場東大で話をして、そのあと学生たちの話を聞くと、学生たちの家庭が崩壊しているわけですよ(笑)よく分からないんだけどいい家族があるかのような思い込みをさせられている。

例えば女性の賃金が低いからお母さんたちが働こうと思う。でも子供を連れて出ていけないからみんな我慢している状況というのは…彼らは「いい家族だ」と言っているけど話をよく聞くと全然いい家族じゃないじゃんみたいな(笑)日本の家族は壊れているから「壊れてていいじゃん、どこがいけないんですか?」っていうか、仲良し家族とか思う必要ないじゃんって「何で私たちは幻を売っているんだろう?」ってみたなことを話してたんですけど。

今までは各々の活動が細分化されちゃってるんです。それをいかに横に繋げて行くかっていうこと。いかにみんなで集まっていくか。集まれる人だけで構わないので、そういう動きに変えていきたいなあと今思ってますね。みんな活動がバラバラになっていくのでもったいないんですよね。その活動をどうやったら少しでもいいから集めていくのか…。

お客E女性:アート活動をやっていると、皆さん魂が素晴らしいんですよ!「本当はみんな素晴らしい」っていうのをいま改めて広げていきたいなと思わせていただきました。ありがとうございました。

坂上:時間もかなり経っていますし終電もありますので、どうしてもっていう人はひとこと。じゃ、その方で終わりにしたいと思います。

お客F女性:今日は絶対に来たいと思っていたので、本当に叶って良かったです。私は『サバイバー(surviver=生き残る人)』から『スライバー(thriver=成長する人)』になった、これぞドキュメンタリーと思いました。私は、映画『ライファーズ〜』をなかなか観られていませんが、映画の本は、ページをめくるごとに涙、涙で胸が詰まりました。

私は在日外国人で、性暴力の被害者です。現状、心のケアが一番必要な人たちは『マイノリティー』ひとくくりで扱われていて、そういうマイノリティーが押しやられている中で、日本には性暴力を禁止する法律がないのは問題だと思います。マイノリティーといえば、ある方が「覚せい剤がなかったら私は生き伸びられないから私は悪いと思わないし、そのおかげで私はここまでサバイブしてこられたんだ。」って。本当に色んな捉え方があるし、今日私もここで少し勇気をもらいました。

話にありました「親のことを敬えない」そんなことを言うと独房に入れられるっていうのも、弱い人ばかりが辛い状態で『自己責任』論に絡め取られていく。非常に怖いなって私は確信を持っています。生涯ライフワークとしてこのような問題に関わっていくことで、坂上監督へはいつかお目にかかりたいと思いながらも「こんな自分じゃだめだ。でもこんな自分を否定していること自体、私は何を学んで来たんだろう…」とかすごく葛藤があったんですね。だから今日はお2人が劇場に入って来られた時に、本当に胸がいっぱいになりました。

「これぞドキュメンタリー!」っという映画こそ大きな劇場で誰でも見ることができるようになればいいのに!私たちはそういう社会を目指してこれからもやっていくのかなって。だからこそこの活動が大切なのかなって改めて思いました。今日はどうもありがとうございました。

坂上:ありがとうございました。今日の上映はもう終わりですけど、まだこれからもどこかで上映する機会がございます。是非みなさんのお言葉でこの映画を広めていただきますようにお願いします。

今、新しい映画『プリズン・サークル』をつくってまして、もうクラウドファンディングは終わってしまったんですけど、そのサイトにまだ情報が残ってたりしますので、是非心に留めておいていただいて、またクラウドファンディングをやるかもしれませんので、その時にはまたご支援いただけましたら。また来年のどこかで…ああやばいこんな時間になっちゃった (笑)今日は本当に、上岡さんもありがとうございました。

皆さんも今日は長い間どうもおつきあいいただきましてありがとうございました!終電もございますので(笑)お気をつけてお帰りください。

(会場拍手)

-レポートは以上となりますが「これは映画ではなく演劇だ。」と感想をおっしゃったお客様もいらっしゃいました。観るたびに違う印象を持たれたそうで、「毎回編集を変えてるんじゃないか?」とおっしゃってました。それだけ観る人の心情やタイミングで印象が変わったように感じることのできる映画とも言えます。

観るたびに新しい発見のある映画…是非何度もご覧になっていただきたい作品です。坂上監督、上岡代表、今回はご登壇誠にありがとうございました。
トークバックトークショー
(写真:阪本安紗美)

【参照リンク】
・映画『トークバック 沈黙を破る女たち』公式サイト
 http://www.talkbackoutloud.com/

・NPO法人out of frame
 http://outofframe.org/

・NPO法人ダルク女性ハウス 
 http://womensdarc.org/

・坂上監督の新作『プリズン・サークル』の紹介ページ
 https://motion-gallery.net/projects/prisoncircle

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